E1692 – 大学図書館コレクションの適正規模化を進める<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.285 2015.07.23

 

 E1692

大学図書館コレクションの適正規模化を進める<文献紹介>

 

Ward, Suzanne M. Rightsizing the Academic Library Collection. ALA Editions, 2015, 163p, ISBN 978-0-8389-1298-0 (paper).

 日本の大学図書館における資料の収容能力の不足は恒常的な問題である。加えて近年,ラーニングコモンズのような新たな学習支援機能の実現のため,大学図書館のスペースの見直しが求められている。電子リソースやデジタル資料の登場と普及も見直しの要因の一つといえよう。

 本書『大学図書館コレクションの適正規模化を進める』は,このような課題についてコレクション管理の面で多くの示唆を与えるものである。著者のウォード氏(Suzanne M. Ward)は米国パデュー大学図書館の蔵書管理課長(head of collection management)で,利用者主導型コレクション構築 (patron-driven acquisition)についての著書がある。

 「適正規模化」(rightsizing)という耳慣れない用語は,従来から図書館が行ってきたコレクションの除架(weeding)やコレクションからの除籍(deselection)が表す概念とはやや異なるものである。著者は適正規模化を「それによって図書館員がコレクションを形成する,戦略的で,よく考えられ,バランスが取れ,計画されたプロセス」と定義している。適正規模化は,大学図書館の利用者に資料を内容と形式の点から正しい組み合わせで提供するだけではなく,当該資料が利用できない場合は,迅速かつ効率的に必要とする情報を提供できるよう,図書館を最適規模に形成するという意味が含まれている。

 本書の第1章は,大学図書館における除架について既往の研究をレビューし,その到達点をまとめている。第2章では,従来の除架作業と方法を簡潔に述べている。第3章は,著者が提唱している適正規模化に基づいた,最新で効果的な除架について論じている。その内容は,古くなって図書館が必要としなくなった資料の除架のために使用してきた,利用頻度や貸出回数などの尺度によるコレクションのダウンサイジングの代わりに,資料の年齢(age of the material),最終貸出日付,学問分野による資料の利用様態の相違,電子リソースの影響,地域コンソーシアムにおける図書の利用可能性,HathiTrust(CA1760参照)やGoogleブックスのような大規模デジタルコレクションにおける利用可能性等の要因を考慮したアルゴリズムと規則による実務を行うべきであるということである。第4章には本文の4割以上が当てられ,大規模な蔵書の適正規模化プロジェクトを行う場合のプロジェクト管理の課題を検討している。この中には雑誌,図書及びマイクロフィルム・視聴覚資料の作業フローが含まれている。雑誌については,学術雑誌のアーカイブであるJSTORに収録されている雑誌の除籍についての具体例がある。第5章は大学図書館における物理的コレクションの将来像を描いている。

 現在,日本の大学の教育・研究は大きく変わろうとしている。今後の大学の全体目標に合致した図書館づくりを念頭において,最新かつ適正なコレクションを形成するための方策を模索している関係者に,本書の一読をお勧めしたい。

秋田大学附属図書館・加藤信哉

Ref:
http://www.alastore.ala.org/detail.aspx?ID=11221
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/08/21/1338889_1.pdf
https://books.google.com/
http://www.jstor.org/
E1310
E1522
CA1760
CA1777