E1522 – 多面的なデータにもとづく除籍を支援するツール<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.252 2014.01.23

 

 E1522

多面的なデータにもとづく除籍を支援するツール<文献紹介>

 

 Cynthia Ehret Snydera. Data-Driven Deselection: Multiple Point Data Using a Decision Support Tool in an Academic Library. Collection Management. 2014, 39(1), p. 17-31.

 過去の知を未来へ伝えることを使命とする図書館にとって,それに反する行為――蔵書の除籍は避けたいものである。しかし収蔵能力には限界があり,ニーズの低い資料の管理コストはゼロではない。ラーニングコモンズのような新たなスペースへの要求も高まっている。除籍対象の選定には貸出回数や最終貸出日がよく使われるが,貸出という側面だけに依拠しては重要な資料を誤って除籍してしまうおそれがある。他館の所蔵や,昨今ではデジタル化の状況も重要な材料になるだろう。

 さまざまなデータを収集して複合的に判断するのが理想的とはいえ,その作業は実に時間のかかるものである。そこで,多面的なデータを活用して除籍対象資料の選定を支援するツールが登場している。本稿ではそのひとつ,Sustainable Collection Services(SCS)社のツールを活用した米国ロリンズカレッジのオーリン図書館の事例報告を紹介したい。

 フロリダ州にあるロリンズカレッジは創立125年を超す,学生数3千人のリベラルアーツカレッジである。オーリン図書館の約29万冊の蔵書は学部生向けのものが主だという。2010年秋に5人の職員による除籍プロジェクトが立ち上がった。当初は貸出や館内利用の記録だけを使っていたが,途中で当時SCS社が開発中だったツールを試用することにした。所蔵データ提供後に同社により提示された基準のなかから次の6つを選択した。

(1)1995年末以前に受け入れた図書である
(2)1996年以降一度も貸出/館内利用されていない(1995年10月以降の記録が残っている)
(3)OCLCに米国内で100超の所蔵(版違い含む)が登録されている
(4)フロリダ大学またはフロリダ州立大学に所蔵がある(同館はコンソーシアムには属していないが,近い将来に州の共同書庫が設置されることを意識している)
(5)Resources for College LibrariesまたはChoice Review(大学図書館向け推薦図書リスト)に掲載されていない
(6)フロリダに関する図書ではない

 これらをすべて満たす図書のリスト(以下,SCSリスト)がSCS社から提出された。現物には除籍候補のしるしがつけられ,職員や利用者による2か月間のレビューを経て,最終的に2万冊が除籍された。なお,今回は政府文書やシリーズものなどは対象外となっている。SCS社からは他にも出版年,州内所蔵状況,寄贈記録,HathiTrust登載状況といった基準が提示されたという。

 ここでは,報告の後半で行われている分析の結果をふたつの観点からまとめてみたい。

 ひとつは除籍候補から外れた理由である。多様な分野(請求記号HG,LC,QH,RC,SB,T~TD)の約15,500冊の図書を対象に,理由の分析が行われた。貸出記録だけにもとづき図書館システムで作成した除籍候補リスト(以下,ILSリスト)には4,991冊,SCSリストには4,108冊が含まれていた。その差883冊(17.7%)は,ツールを利用することで蔵書として残す理由が見いだせたものだと言える。請求記号によって状況にばらつきはあるが,(3)か(4)のいずれかに該当しない図書が758冊(85.8%)と,他館の所蔵状況が理由となっているものが大半であった。他方,(5),(6)に該当しないものはそれぞれ117冊,52冊と比較的少数だった。なお,883冊のうち236冊は該当しなかった基準が複数あった。

 もうひとつは職員の“眼”とツールの比較である。工学分野の一部(請求記号T~TD)の1,500冊(うちILSリストには843冊,SCSリストには709冊)を対象に,サブジェクトライブラリアンによる綿密な評価が行われた。その結果,SCSリストのうち27冊が残すべきだとされ,いずれのリストにも含まれない33冊が新たに除籍対象として選ばれた。しかしこれらは合わせても4%であり,残すべきものはレビューで見抜けるし,除籍すべきものも次期プロジェクトで対象になるだろうと考察されている。また,ある調査ではSCSリストの97.5%についてサブジェクトライブラリアンの同意が得られたという結果も紹介されている。

 以上を受けて,SCS社のツールがプロジェクトにもたらしたものは大きいとまとめられている。挙げられているメリットのうち,膨大な時間と労力を節約できること,ILLで入手しづらい図書は除籍していないという安心感が得られること,さまざまなデータを根拠とすることで教員の理解を得られやすいこと,は特筆に値する。その後同館はSCS社のGreenGlassというウェブサービスを契約し,次のプロジェクトに向けて動いているという。

 こういったツールはもちろん除籍だけではなく外部書庫や共同書庫への移送においても利用でき,シェアードプリントの文脈でも注目される。この領域に注力するSCS社が設立されたのは2011年,その前身のR2 Consulting社が除籍支援を開始したのも2008年と最近のことであるが,海外では他にも同様の意思決定支援システムが存在する。商用製品ではSerials Solutions社のIntota AssessmentやInnovative Interfaces社のDecision Centerが,オープンソースではGISTプロジェクトのGift and Deselection Managerがリリースされている。図書館がデータにもとづいた意思決定を行い,行動することを支援しうるシステムが日本でも充実していくことを願っている。

京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館・林豊

Ref:
http://dx.doi.org/10.1080/01462679.2013.866607
http://sustainablecollections.com/
http://sustainablecollections.com/about-scs/
http://www.rclweb.net/
http://www.cro3.org/
http://sustainablecollections.com/greenglass/
http://r2consulting.org/
http://r2consulting.org/pages/About%20R2.php
http://r2consulting.org/pages/Library%20Services.php
http://r2consulting.org/pdfs/2future_tense_lugg.pdf
http://r2consulting.org/pdfs/Disapproval%20Plan.pdf
http://www.serialssolutions.com/en/services/intota/assessment
http://www.iii.com/products/decisioncenter.shtml
http://www.gistlibrary.org/gdm/