カレントアウェアネス-E
No.285 2015.07.23
E1691
「としょつくVol.1~魅力的な本棚をつくる」
奈良県立図書情報館では,5月9日に「としょつくVol.1~魅力的な本棚をつくる」編集編を,6月28日に設計編を開催した。このワークショップは「魅力的な本棚とは?」をメインテーマに,館の所蔵資料からテーマに沿った本をセレクトする編集編と,それを受けて,セレクトされた本をどのように見せるのか,本棚を参加者が実際に製作してディスプレイする設計編とで構成されている。
このワークショップは,当館の他のイベントに参加していた中津壮人さんの発案によるもので,その想いや方向性を同じくするメンバーが集まり,緩やかなコミュニティをつくりながら当館とともに企画を具体化させ,今回の開催に至ったものである。中津さんによれば,当館のあり方を見ているうちに,「図書館は情報を求めてやってきてインプットするだけの場所ではなく,多様な知識やスキルをもっている人が集まり交流し情報共有するなかで,かたちあるものをアウトプットできる場所なのではないか」と考えたという。そこで,自らの職業とも関わりの深い(中津さんは文具の設計をされている)ものづくりもそんなアウトプットの素材になるのではないかと考えたという。今回,ものづくりと図書館ということで真っ先に浮かんだのが「本棚」だったのである。
編集編では,書店員や古書店主の方々をコーディネーターに,参加者が5つのチームに分かれ,まずそれぞれのチームが当館の書架をめぐりながらテーマに沿った本をセレクトするところから始まった。次に,集めてきた本をテーマ仕立てのストーリーを考えながらディスプレイし,そのディスプレイのコンセプトについてプレゼンテーションするというものであった。ちなみにテーマは,あらかじめ主催者側で設定した「はこぶ本棚」,「すまう本棚」,「被災地に寄り添う本棚」,「共生する本棚」であった。それぞれ抽象的ではあるが,例えば「共生する本棚」では,47都道府県それぞれを扱った本47冊がセレクトされたり,「すまう本棚」では,事前にチームで家族構成や家族それぞれのエピソードを設定し,それらを象徴的に表現するような,ユニークなセレクトがなされていた。そしてセレクトした本を前に,想像しなかったストーリーが生まれ共有される。リソースを再編集すること,そしてそれを発信することの面白さとそれによってセレクトした人自らも触発される有り様は,人と情報が,あるいは人と人が交流することで何かが生まれるという図書館のひとつのあり方を示唆していると思われる。
設計編では,4名のプロダクトデザイナーが,事前にそれぞれのテーマから思い浮かんだダンボールと木材との組み合わせを考え,フレームを設計した。参加者は,その設計図に従って,組み合わせや配置を考えながら,本棚の製作を行った。参加者は,編集編でセレクトされた本をもとに,どのようなディスプレイ上の工夫で,新たなストーリーが生まれ発信されるのかということや,ものづくりが本と結びついてどのようなアウトプットが行われるのかということなどを考えるなかで,ものづくりを超えた面白さを味わったのではないかと思われる。同時に参加者がものづくりのプロセスを通じてアウトプットまでのストーリーを体感できるということが,単なる情報発信を超えた体験になったのではないかと思われる。
参加者アンケートを見てみると,「見る側から見せる側」,「受信する側から発信する側」という立ち位置の転換の新鮮さや,知らない者同士が集まり,選んだ書物から予期しないストーリーが生まれる醍醐味を味わったというような感想があった。このことは,当館でアウトプットすること,また発信するための情報の再編集と,実際にモノがつくられるプロセスとが融合されることによって,参加者にとっては,本をセレクトする,ものをつくる,といった作業だけでは得られない新たな感覚を体験することができたのではないかと思われる。本をめぐる「もの」は,本棚だけではなく,机,椅子,照明,あるいは文具など多岐にわたる。それらのものづくりを通して,本のもつ「リンク力」とでもいうようなものが引き出される。「リンク力」とは,本の内容をはじめ,形,デザイン,紙質といった構成要素に連なる「もの」との連関である。本のある風景とは,「もの」との連関によってかたちづくられるものである。だとするならば,その連関に注目し発信することで,本とものづくりそれぞれの魅力を同時に発信できるという相乗効果を生むことになるのかもしれない。
これまで当館では,本とは何か(「本の原点を探る2日間」),本のある空間を考える(トークセッション「本+空間vol.1」;E1624参照),ブックデザインを体感し,考える(「世界のブックデザイン」,「ブックデザインクロストーク」)など,本をめぐってさまざまなアプローチを行ってきた。本をめぐる冒険はまだまだ続きそうである。
奈良県立図書情報館・乾聰一郎
Ref:
http://www.library.pref.nara.jp/event/1583
http://www.library.pref.nara.jp/event/1584
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E1624