E1471 – 深夜の図書館は誰がどのように利用しているのか<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.243 2013.08.29

 

 E1471

深夜の図書館は誰がどのように利用しているのか<文献紹介>

 

Scarletto, Edith A. et al. Wide Awake at 4 AM: A Study of Late Night User Behavior, Perceptions and Performance at an Academic Library. The Journal of Academic Librarianship. 2013, doi:10.1016/j.acalib.2013.02.006.

 米国オハイオ州にあるケント州立大学の図書館では2011年から24時間開館が実施されている。このスケジュールに慣れるに伴い,同大学の図書館員は,深夜の図書館を誰がどのように利用し,どのようなサービスや資料が求められているか,安全性に不安はないか,24時間開館は学生の成績向上や目標達成につながっているか,といった疑問を感じるようになった。これらの疑問から,同大学では利用者データ,アンケート,学生の成績データ等の調査を行い,論文にまとめた。

 ケント州立大学は,学部生・大学院生をあわせた学生数約27,700人の研究大学である。キャンパスの中央に位置する中央図書館は,地下1階から12階までのうち10フロアが深夜でも利用可能となっている。24時間開館は試行期間も含めると,2011年3月から,春学期と秋学期の日曜の正午から金曜日の午後10時まで実施されている。このうち深夜開館の時間帯である午後11時から午前7時半までの図書館利用は,大学の構成員である学生,教職員に限定され,入館のためには大学のIDが必要となる。

 この調査のために2種類のデータが分析された。Building Monitoring Database(BMD)の記録に基づいたデータと,アンケートに基づいたデータである。利用者が深夜開館の時間帯に入館する際に使用したID番号は,大学図書館の利用者データベースと適合され,メールアドレス,入館日時と供にBMDに記録される。調査期間中にBMDに記録された利用者のID番号は,所属学部や専攻,成績平均値(GPA),国籍等に関するデータと関連付けるためにUniversity Research, Planning and Institutional Effectiveness(RPIE)オフィスにも送られた。また,BMDに記録されたメールアドレスを利用して,無記名のウェブアンケート調査が行われた。

 調査の結果,次のようなことがわかった。

  • 深夜利用者の属性については,大学全体の人数構成に比して,学部生,留学生の人数がわずかに多いものの,大きな偏りはなかった。
  • 深夜利用者のうち57%が,深夜の図書館を調査期間中に2回以上利用しており,39%は3回もしくはそれ以上の回数で利用している。曜日別に見ると,日・月・火曜日の利用が多く,時間帯別にみると,午後11時から午前2時の入館数が全体の80%を占めていた。また,週別にみると,学期の最終週の利用が最も多かった。
  • 深夜利用者の63%が,図書館を昼よりも深夜に利用することが多いと回答した。
  • 深夜開館の利用目的については利用者の87%が静かに勉強するため,72%が研究プロジェクトやレポート作成,42%がグループ研究のためと回答した。
  • 深夜開館で最も利用されるサービスは,ワイヤレスインターネット,プリンタ,コンピュータであった。深夜にスタッフが配置されている唯一のサービスである貸出デスクは,アンケートに回答した学生のうち16%が利用していた。
  • 深夜開館で提供を希望するサービスでは,飲食を求める声が47%と最も多 かった。
  • 深夜利用の安全性については,96%の利用者が図書館内は安全で守られていると感じていることがわかった。
  • 深夜開館を利用する学生のGPAと大学全体のGPAを比較すると,学部生,院生ともにGPAに大きな差は見られなかった。

 この論文では,分析結果をふまえ,深夜利用者の多くがレポートやプロジェクトのために利用しているため,こういった研究活動のためのスペースを提供することは,学生の成績向上とその持続に関する大学の戦略的目標に貢献することになるだろうとしている。

 これらのデータを定期的に見直すことは,図書館サービスの長期にわたる影響を示し,コミュニティにおける図書館のサポートを向上させるだろうと論文は述べている。今後は,アカデミックカレンダーを通してニーズの変化がないか,学期の異なる時期に更なる調査を行う必要があるとしている。深夜利用者のように直接交流する機会が少ない利用者については,図書館員の観察が及ばず,サービスの評価が難しい。様々なデータを活用し利用の実態と効果を探ったケント州立大学のアプローチは参考になるものといえよう。

(関西館図書館協力課・安原通代)

Ref:
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0099133313000219
http://www.kent.edu/library/index.cfm?ref=nav_academics