E1306 – 2012年,大学・研究図書館の10のトレンド

カレントアウェアネス-E

No.217 2012.06.28

 

 E1306

2012年,大学・研究図書館の10のトレンド

 

 米国の大学・研究図書館協会(ACRL)が刊行している“College & Research Libraries News”(C&RL News)の2012年6月号に,2012年における大学・研究図書館の10のトレンドを紹介した記事“2012 top ten trends in academic libraries”が掲載されている。記事は,ACRLの研究計画審査委員会(ACRL Research Planning and Review Committee)が作成したもので,同様の記事が隔年で掲載されている。以下,各トレンドについて簡単に概要を紹介する。

  • 図書館の価値を示す
    ACRLが2010年に刊行したレポート『大学・研究図書館の価値』等を参照しつつ,大学・研究図書館はその所属機関の事業に対して貢献できる価値について明示することが求められているとしている。
  • データキュレーション
    2010年に米国科学財団(NSF)が公的資金に基づく研究成果を広く活用できるようにするために研究データ共有ポリシーを変更したこと等の話題に触れ,研究者らのデータキュレーションの動向を紹介している。その上でデータキュレーションは,図書館員等のスキルを発揮する機会であり,図書館員には研究コミュニティを支援する重要な役割があるとしている。
  • デジタル保存
    大学・研究図書館は自館のもつ特徴的なコレクションのデジタル化,あるいはボーンデジタル資料の収集保存を進めているものの,デジタルコレクションの包括的な保存計画や標準化されたアーキテクチャと方針が作成されていないケースがあることへの懸念等が示されている。
  • 高等教育
    高等教育機関を取り巻く環境の変化が紹介され,その環境の変化に,大学・研究図書館は,コレクション構築や資料提供,既存の/新たな利用者によるサービスへの期待から,また,図書館がその所属機関に対してどのように価値を示し続けていくのかという観点から,影響を受けているとしている。
  • 情報技術
    情報技術の進展に伴い,大学・研究図書館内ではその技術の利用について検討が進められている。ここでは,特定主題について検索できる機能等を追加したウェブスケールディスカバリーシステムやコミュニティソースの図書館管理システム等が紹介されている。
  • モバイル環境
    モバイル端末が情報探索・情報利用において急速に重要な位置を占めるようになったことが指摘され,その変化への対応からEBSCOhostがモバイル端末のアプリを提供していること,JSTOR,Elsevier,Thomson Reuters等のベンダがモバイル端末向けインターフェースやアプリの提供を行っている等の現状が紹介されている。
  • 電子書籍を対象としたPatron Driven Acquisition(PDA)
    電子書籍を対象とした利用者主導型蔵書構築法Patron Driven Acquisition(PDA)が,大学・研究図書館の蔵書構築の標準となりつつあると紹介されている。また,電子書籍コレクションの永続的なアクセス保証のため,電子書籍のライセンス契約の内容や規格に求められねばならないこととして,電子書籍の貸出を容易にできるようにすること等が指摘されている。
  • 学術コミュニケーション
    電子出版モデルのかつてない普及により,大学・研究図書館もそれに対する対応を迫られている。図書館側は,リポジトリ,著作権関係のアドバイス,デジタル化等のサービスを提供しているものの,出版事業に従来から必要とされている,査読の管理や編集,デザイン作成,マーケティング等の出版サービスについては,教員から求められているもののあまり積極的に行っていないこと等が指摘されている。
  • 図書館員の雇用・養成
    図書館を取り巻く環境の変化にあって,図書館員の研修に対する関心は高いとされており,特に,データキュレーション,デジタル資源の管理と保存,学術コミュニケーション,授業や学生の学びへのサポート等が,新たに必要なスキルとして紹介されている。
  • 利用者行動と図書館が期待されていること
    情報の取捨選択やアクセシビリティ,情報源の利用といった情報探索において,図書館は利用者にとって不便な存在となっていることが指摘されている。そのため図書館は,利用者にとっての利便性を高めるために,ソーシャルメディアやチャット等のチャンネルを開くだけでなく,利用者の中に入り込むような試み(CA1751参照)が求められているとしている。
  • (関西館図書館協力課・林豊)

    Ref:
    http://crln.acrl.org/content/73/6/311.full
    CA1751