カレントアウェアネス-E
No.210 2012.02.23
E1265
ARLが米国の大学図書館等におけるフェアユースの基準を公表
北米の大学図書館等が加盟する北米研究図書館協会(ARL)は,2012年1月に,大学・研究図書館におけるフェアユースに関するベストプラクティスをまとめた文書“Code of Best Practices in Fair Use for Academic and Research Libraries”を公表した。
米国の著作権法においては,著作権保護期間内の著作物であっても,批評,解説,ニュース報道,教授,研究,調査等を目的とする利用において,その利用がフェアユースであると判断される場合には,著作権者の許諾を得なくても著作権侵害とはならないと規定されている。その判断に際しては,使用の目的と性質,著作物の性質,使用の程度,経済的影響,という4つの要素が考慮される。
ARLが2010年に大学・研究図書館員を対象に行ったフェアユースについての調査では,どこまでが認められる範囲なのか合意がないためフェアユースとして実施しうる行為についても差し控えることが多くある,ということが示されていた。今回の文書は,その調査やその後のグループディスカッション等を踏まえ,大学・研究図書館での実際の運用や経験を基にまとめられたもので,フェアユースを主張できるケースとして以下の8つが示されている。
(1)デジタル技術を用いた資料アクセスによる教育や学習の支援(2)図書館活動の広報や展示のための所蔵資料の利用(3)劣化の危機にある資料を保存するためのデジタル化(4)アーカイブ資料や特別コレクションのデジタル版コレクションの作成(5)障害を持つ学生や教職員等による利用のための資料の再製作(6)他の著作物を含む著作物の機関リポジトリへの登録と公開(7)機械的な解析等の研究使用を促進するための資料のデータベース作成(8)ウェブで公開されている資料の収集と公開
それぞれのケースについて,要点を簡潔に示した「原則」(principle)と,それがフェアユースと考えられる理由等の説明とともに,フェアユースとして主張するために図書館側が行っておくべき「制限事項」(limitations)と,主張を強化するための「補強材料」(enhancements)が示されている。例えば,上記の(3)についての制限事項としては「同等のデジタルコピーが市場で入手可能な場合には保存用コピーは作成しない」「原本と保存用コピーを同時に利用可能にしない」「保存用コピーへの敷地外からのアクセスは関係者に限定する」「オンライン公開する資料についての権利の帰属を明記する」の4点が,補強材料としては「再頒布を制限するような技術的措置をとる」「著作権者が異議を伝える手段を提供する」の2点が挙げられている。
なお,文書全体について注意すべき点として,この文書は米国における行為を想定したものであること,文書作成にあたって著作権者側関係者と協議したものではないこと,法的リスクは各機関がそれぞれの実状に照らして判断すること,等が示されている。また,著作権者が特定できない「孤児著作物」の問題等については,今後フェアユースの適用に関しての進展があるであろうとしている。
Ref:
http://www.arl.org/pp/ppcopyright/codefairuse/index.shtml
http://www.arl.org/news/pr/fairusereport_20dec10.shtml
http://chronicle.com/blogs/wiredcampus/fair-use-guide-hopes-to-solve-librarians-vhs-cassette-problem/35151