E1184 – 電子リソース時代に国際ILL/DDを維持するためには

カレントアウェアネス-E

No.195 2011.06.23

 

 E1184

電子リソース時代に国際ILL/DDを維持するためには

 

 北米研究図書館協会(ARL)は,国際ILL/DD(図書館間相互貸借/ドキュメントデリバリー)における著作権等の問題を調査するタスクフォースを設置し,その下に「国際ILL」,「米国法と国際ILL」,「ライセンス契約の動向」という3つのワーキンググループを招集していた。その報告が,2011年6月刊行のResearch Library Issues誌の275号に掲載されている。

 タスクフォース設置の理由は,Elsevier社,Wiley社,Springer社等110社が参加する国際STM出版社協会が,ARL加盟館に対して,国際ILL/DDによって資料を提供する際には出版社の許可を得なければ米国著作権法を侵害する恐れがあると告げてきたことであるという。

 報告によれば,ITによって印刷資料が見つけやすくなってきたこと,米国外で出版される資料の増加,OCLC WorldCatに収録される非英語資料の増加(2010年時点で57.5%)等を背景として,国際ILL/DDというサービスは重要性を増している。しかし,国内ILL/DDとは違い国境を越えたサービスにおいては,ベルヌ条約等の国際的な協定がILL/DDについて標準的な規定をしていないため, ILL/DDというサービスを実施するかどうかや,複製・頒布の許可に対して使用される条件等は各国の裁量に委ねられているという。

 更に,電子環境下においては2つの問題が登場している。1990年代以降の紙資料から電子資料へのシフトに伴ってILL/DDの依拠するものが著作権法から出版社等とのライセンス契約に移ってきていること,電子書籍の急速な普及とそれへの対応,の2点である。ARL加盟館や出版社に対して調査を行った結果,以下の点が判明した。(1) 大多数の電子ジャーナル出版社はライセンス上ILL/DDを許可しており,また同一国内のILL/DDには制限を加えてない。(2) 大多数の電子ジャーナル出版社はセキュアな電子的手段によるILL/DDを許可しているが,一般的には一度印刷した論文をスキャンして送信することを求めている。(3) ライセンスに含まれるILL/DDに関する表現はしばしば矛盾していて理解が困難である。(4) 電子書籍の環境は電子ジャーナルに比べて未成熟で権利問題は複雑である。多くの出版社はライセンスの中で電子書籍のILL/DDについて触れているがそれが何を意味するかは明確でない。

 このような問題をはらむ電子環境下において今後も国際ILL/DDを維持していくためにはどのように対応すればいいのか。同報告では以下のような提案をしている。

  • 著作権法からライセンス契約へのシフトの結果,ILL/DDを行う権利が制限されてしまう可能性がある。ライセンスに「著作権法で許可された事項を何ら制限しない」という条項を含めてもらうことが大切である。
  • 電子書籍の急速な普及は,図書館と出版社が協力してライセンスで使用される条件について考える良い機会である。図書館は出版社に対して,電子書籍をILL/DDで提供する権利を認めるように,また,一部の章だけではなく電子書籍全体を提供できるように,積極的に働きかけていくことが重要である。
  • 出版社そして契約交渉を担当する図書館員がILL/DDについて理解する必要性が増している。ライセンスの中でILL /DDについて明確に表現した条項の模範例を考え出すことは,共通理解を促進するために大きな価値を持つ。

 報告の結論部分で,タスクフォースは,国際図書館連盟(IFLA)のガイドラインにある「どんな図書館も単体では利用者のあらゆる情報要求を満たすことはできないように,それが可能な国もまた存在しない」という言葉を引用し,北米の研究図書館は国際ILL/DDに参加する権利があると主張している。

Ref:
http://publications.arl.org/rli275
http://www.libraryjournal.com/lj/home/891002-264/research_libraries_publishers_stake_out.html.csp