E1183 – フランス国立図書館のウェブアーカイブ事業調査報告書

カレントアウェアネス-E

No.195 2011.06.23

 

 E1183

フランス国立図書館のウェブアーカイブ事業調査報告書

 

 2006年に法定納本制度が改正されたフランスでは,以来,フランス国立図書館(BNF)がウェブアーカイブ事業に取り組んでおり(CA1614参照),収集した資料を試験的に館内で公開している。BNFは,ウェブアーカイブ事業で収集した資料の利用が予想される3つのユーザーグループ,すなわち研究者,専門職者(弁護士,マーケティングコンサルタント,ジャーナリスト等),研究図書館であるフランソワ・ミッテラン図書館の一般利用者に対して,同館のウェブアーカイブ事業に関するニーズ調査を2010年末から2011年初頭にかけて行い,2011年5月23日に報告書としてまとめて公開した。報告書にはインタビューの結果とともに,それを踏まえた提言も示されている。

 まず,調査結果として以下の点が挙げられている。

 研究者は,インターネット情報の量の多さとともにそれが失われやすいものであること,そして,それらを保存する必要性は理解しつつも,ウェブアーカイブで収集された資料を,資料として意味のあるコレクションにするのが難しいことを認識している。そのため,研究者はBNFに第三者として,コレクションとして意味のあるインターネット情報へのアクセスを保証する役割があると考えている。しかし研究者は,ウェブアーカイブには倫理的・方法論的な観点で課題があることも指摘している。加えて,ウェブリソースの分析や利用の方法は確立されたものではないため,それらの資料を研究に利用することは現状では避けられているとも述べている。

 専門職者は,ウェブアーカイブ資料に対して常に関心を持っているわけではなく,それらの資料を仕事上必ずしも必要な情報として位置付けてはいない。そのために興味があってもわざわざBNFまで足を運ばないとしている。

 研究図書館の一般利用者は,ウェブアーカイブ資料の利用者としては最も遠い存在である。そのため,ウェブアーカイブに関心を示したのは,特にウェブを活用する利用者だけであった。

 以上3つのグループにインタビューした結果,将来的にどのような資料が求められるのか現在では分からないこと,しかしどのインターネット情報を収集するかについての何らかの選別は必要であること,この2つの矛盾する要求が示された。そのため報告書は,BNFが現在採用している「混合方式」(大規模にウェブ情報を収集するとともに,一部のインターネット資料を選択して集める方式)が,その相矛盾する要求に応える上で最適な方法であるとしている。

 次に,「プロモーション」,「コミュニティ」,「サービス」,「コンテンツ」の4項目に分けて提言が示されている。

 「プロモーション」では,コレクションと収集選択基準の原則に関する根拠を示し情報を公にすること,失われたウェブコンテンツの事例をまとめたデータベースを作成し,ウェブアーカイブに関心を呼び込むようにすること等が指摘されている。

 「コミュニティ」では,研究者にウェブアーカイブに関する広報活動を行ったり,研究者等と共同で,研究においてウェブアーカイブを活用するような方法を考案したりすること等が示されている。

 「サービス」では,インターネットユーザーが自身のウェブサイトをBNFにアーカイブしてもらうよう申し込めるようにしたり,現状の法制度の範囲内で,遠隔利用でもウェブアーカイブ資料を利用できるような検索サービスを提供したりすることが指摘されている。

 最後に「コンテンツ」では,ウェブ情報の重要な集積点やつながりがたどれるようなコレクションを構築すること,人気のあるウェブサイトやGoogle検索による検索結果ページを保存すること等が必要であるとされている。

Ref:
http://www.bnf.fr/en/bnf/about_the_library/a.internet_archive_study.html
http://www.bnf.fr/documents/internet_archive_study.pdf
http://www.bnf.fr/documents/enquete_archives_web.pdf
CA1614