E1134 – LJ誌がライブラリアン・オブ・ザ・イヤー2011を発表(米国)

カレントアウェアネス-E

No.186 2011.01.20

 

 E1134

LJ誌がライブラリアン・オブ・ザ・イヤー2011を発表(米国)

 

 2011年1月15日付けのLibrary Journal誌で,2011年のライブラリアン・オブ・ザ・イヤーが発表された。選ばれたのは,公共図書館勤務を経て,現在は公共ラジオ局“National Public Radio”や地方のテレビ番組等のメディアでの活動や,自身のウェブサイトや著作等を通じて読書振興のために多彩な活動を行っている,パール(Nancy Pearl)氏である。

 パール氏の活動の支えになったのは,デトロイト公共図書館のパークマン分館に勤務していた児童サービス担当の二人のライブラリアンであったという。パール氏は,子どものころに出会ったその二人のライブラリアンが自分にしてくれたこと以上のことは自分にはなし得ないと語っており,自身にとってパークマン分館は大きな存在であったと述べている。そのパール氏自身にとって,ライブラリアンとしての最初の職場は,デトロイト公共図書館であった。その後,数年間の書店勤務を経たのち,タルサ市郡図書館に移り,そこで副館長から能力を認められ,蔵書構成部門の責任者に抜擢されたという。

 パール氏は,シアトル公共図書館ワシントンセンター長であった1998年に,シアトルの住民が同じ本について語り合う“One City, One Book”プログラムを開始した。このプログラムは,現在,全米規模で広く普及しているものである(CA1708参照)。2004年に同館を退職した後は,フリーの活動家として前述のメディアでの活動のほかに,全米規模で読書アドバイザーとしての研修をライブラリアンに対して行っている。パール氏に1,200名の全職員に対するワークショップを依頼したキング郡図書館では,そのワークショップの経験をもとに,キング郡をより読書好きの地域へと変えることを目指した“Take Time To Read”というプログラムを始めたという。また,現在パール氏は,ワシントン大学で図書館情報学を専攻する学生に対して,読書アドバイスや蔵書構成の技術,ブックトーキングに関する講義を行っている。そこでは,図書館のあり方を変えたいと思い,その思いを実行に移そうとするならば,それを実現できる小さな公共図書館に行くべきだと教えているという。

 読書アドバイザーとしてのパール氏が考える「良い本」とは,「読み手が読んで楽しめる本」である。したがって,もしその本が好まれなくとも,単にその時に好かれなかっただけに過ぎないのであるという。利用者に対して幅広い本を提案することを恐れてはいけないのだとパール氏は語っている。そして,もし利用者に「次はどの本を読んだらいい?」と聞かれたら,3冊の本を示すべきと述べている。一つ目は利用者が好きな本によく似た本,二つ目は少し異なる本,そして三つ目が大きく異なる本である。利用者は自分の好きなところの書棚にまっすぐ向かうが,ライブラリアンの仕事は利用者をそれ以外の場所へ誘うことにあると,パール氏は語っている。

 パール氏は,昨今の電子書籍の拡大を背景とした独立系書店の衰退とともに,公共図書館の現状を憂慮しており,「ライブラリアンは,自分たちが必要としていることとともに,それをどのように必要としているかを見つけ出さなくてはらなない,しかる後に私たちは集い,行動に移すべきなのである。私たちにはまだ変化の方向性を変えるだけの力があると思う」と述べている。

Ref:
http://www.libraryjournal.com/lj/home/888408-264/nancy_pearl_ljs_2011_librarian.html.csp
http://seattletimes.nwsource.com/html/editorials/2013876436_edit08pearl.html
http://www.nancypearl.com/
CA1708