『カレントアウェアネス』50年に向けての期待 / 村上浩介

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.340 2019年6月20日

 

『カレントアウェアネス』50年に向けての期待

調査及び立法考査局議会官庁資料課:村上浩介(むらかみこうすけ)

 

 筆者は2005年7月から4年間、係長として本誌の編集業務を担当した。また編集業務の傍ら、オンラインでの情報提供に係る業務、システムの整備にも取り組み、2006年6月にウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)の本格運用を開始した。これが本誌40周年のエポックの1つであるとして、当時を振り返る記事の寄稿を仰せつかったが、筆者にとっては既定路線、敷かれていたレールの上を進んだだけである。CAポータルの立ち上げについては、当時、いくつか記事を執筆したが(1)、担当を離れて10年以上が経過し、少しは客観的に見られるようになった今、筆者が当時抱いていた感想を基に、本誌の占める特徴的な位置付けを再考してみたい。

 大変ありがたいことに、CAポータルに対しては、図書館関係者から多くの感想やご意見をいただいた。その中には、「国立国会図書館(NDL)らしくないサービス」と評価していただいたものが少なからず含まれていた。NDLの名前、「国立」や「国会」が想起させるイメージとは異なる「意外さ」を感じた、というのである。これには2つのタイプがあった。1つには、軽めの記事が紹介されていることを「意外」と捉え、好ましいと評価いただいたものである。例えば、筆者が担当していた時期では、利用者にも愛されていた米国の図書館ネコ・デューイの死(E574参照)、図書館目録に関する論考のイグ・ノーベル賞受賞(E734参照)、オバマ前米国大統領の図書館へのメッセージ(E855参照)といった記事に対し、NDLがこうしたトピックを取り上げるのは意外だという感想をいただいた。これらの評価は、さらなる努力が必要という意味で、筆者にとって励みとなった。国立国会図書館法には、「あらゆる適切な方法により、図書館の組織及び図書館奉仕の改善につき、都道府県の議会その他の地方議会、公務員又は図書館人を援助する」ことが、国立国会図書館長の権能として認められている(第21条第1項第2号)(2)。全国の図書館関係者が興味・関心を持つような情報を提供することは、NDLの役割の一つであると言える。「CAポータルを見ると、NDLがこういうことに注目している、ということが分かる。自分たちに関わりの深い記事を見ると、自分たちのことも忘れられていない、見てくれているんだ、という気がする」といった感想をお寄せくださった図書館関係者もいるが、「NDLらしくない」という好評価はいったんありがたく受け取った上で、いずれは「NDLらしい」と感じられるようになりたいと思ったものである。

 もう1つの「意外さ」のタイプは、公開されたばかりの海外の情報やニュースが、間を置かず、日本語で紹介されているというフットワークの軽さに関するものである。これには正負両面の評価があった。正の評価としては、迅速な情報発信が役に立つ、というものである。収集した国内外の情報やニュースを、まずウェブサイトで短く速報した後に、印刷版で詳しく紹介する。このような情報発信のスタイルは、雑誌や新聞、通信社などでは当たり前になっているが、当時、「国立」「国会」の機関が行っていたことが、珍しかったのかもしれない。負の評価としては、「NDLらしからぬ軽率さ」などとして、紹介した記事の誤りや不適切な訳語を指摘するご意見や、賛否両論あり得るトピックの取り上げ方へのご懸念をいただいたことがある。軽さ、迅速さと両立させることは大変だが、NDLが発信するということが有する意味や影響を勘案し、慎重に、丁寧に執筆する必要があることを実感した。

 しかしながら、これらのご意見よりも強く、筆者の心を捉えたのは、匿名のNDL職員から寄せられた「カレントアウェアネスだからこそ成功したサービス」という意見であった。本誌の伝統こそが、上述のような「NDLらしくなさ」「意外さ」の源にあるのだという指摘は、まさに正鵠を射るものであった。本誌は元々、「図書館に関する内外の情報を的確に把握し、当館職員に提供して館運営の参考に資する」(3)ことを目的として創刊された。現在よりも情報の流通量が圧倒的に少なかった時代、本誌の担当者や記事執筆者は、NDL職員の目となり耳となって、NDL職員が知っておくべき情報、関心を持ちそうな情報を紹介してきた。例えば、「インターネット」をタイトルに冠する記事を初めて掲載したのは1994年であり(CA936参照)、HTMLの基盤となる情報表現法「ハイパーテキスト」に関する記事は1989年にまで遡る(CA635参照)。他方で、1994年の「SF小説に見る未来の図書館」(CA970参照)、1999年の「図書館の怪談」(CA1265参照)といった柔らかいトピックのものもある。これらから分かるように、本誌は伝統的に、先見性、柔軟性、多様性を備えていた。また、若い職員に積極的に記事執筆を促し、視野を広げ経験を積ませるという慣習もあった。筆者も採用直後に執筆を依頼されたし、できるだけ多く、若い職員に執筆を依頼するよう努めた。本誌は1989年 6月から、一般にも販売されるようになったが、以後も依然としてNDL内での知の共有や継承、人材の育成、さらにはコミュニケーションを生み出すツールとしての役割を果たしてきた。そうした伝統の流れで、発刊の辞にある「さしあたり月刊をもってスタートしますが、能力と経費が許せばその刊行頻度をさらに多くしたい」(4)という思いを実現する、CAポータルが誕生したと言える。

 実際のところ、筆者が担当に着任した時点で、本誌バックナンバーのテキストデータ化はほぼ済んでおり、その4分の3程度はウェブサイトで公開されていた。メールマガジンの配信も始まっていた。オンライン提供のイメージ、業務フローの概要まででき上がっており、後はそれを形にするだけで良かった。こうした前任者の作業はもちろんのこと、当時の副館長を始めとするかつての担当者や執筆者のバックアップも大きかった。予算の手当もなく、見切り発車の部分が大きかったが、「カレントアウェアネスだから」ということで、かなり自由にやらせてもらった。NDLの内側をよくご存知の図書館関係者から「重厚長大なNDLの中では異質なサービスであり、よく実現できたものだ」という皮肉交じりの感想をお寄せいただいたこともあったが、その異質さは、本誌の存在それ自体に内包されていたと言えよう。

 筆者が2009年に担当を離れてからも、後任の担当者諸氏の尽力により、本誌の伝統は継承され、着実に歩みを進めているように見受けられる。知名度が上がったことで、担当者が受けるプレッシャーも増しているのではないかと推察する。NDL内外に数多くの読者がいることを考えると、トピックの網羅性、国・地域の多様性、情報の迅速さ、正確さなど、求められるハードルは高いだろうが、幸いにも「カレントアウェアネスだから」で許容される部分もある。非常勤の調査員、また本誌編集企画員として、支えてくださる有識者の方々もいる。今後、50周年、さらにその先も、国の機関に求められる「のり(法・則・範・規…)」を踏まえつつ、硬軟自在、「ノリ(乗り)」良くタイムリーに、最新情報(カレント)を慎み深く紹介する(アウェアネス)媒体であり続けることを期待したい。

 

(1) 上田貴雪, 村上浩介, 筑木一郎.図書館の「いま」をどのように伝えるか:国立国会図書館の「Current Awareness Portal」の試み. 情報管理. 2006, 49(5), p. 236-244.
https://doi.org/10.1241/johokanri.49.236,(参照 2019-05-14).
図書館に関する調査・研究をお手伝いします:“Current Awareness Portal”提供開始. 国立国会図書館月報. 2006, (543), p. 40.
https://doi.org/10.11501/1001564,(参照 2019-05-14).など。

(2) “国立国会図書館法”. e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC1000000005,(参照 2019-05-14).

(3) 宮坂逸郎. 発刊にあたって. カレントアウェアネス. 1979, (1), p. 1. ちなみに本誌の創刊以前は、NDLの広報誌『国立国会図書館月報』に、図書館に関するニュース記事や、用語解説が掲載されていた。

(4) 前掲.

[受理:2019-05-14]

 


村上浩介. 『カレントアウェアネス』50年に向けての期待. カレントアウェアネス. 2019, (340), p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca_no340_murakami
DOI:
https://doi.org/10.11501/11299454

Murakami Kosuke
Toward the Next Decade of “Current Awareness”