CA635 – ハイパーテキスト / 坂本博

カレントアウェアネス
No.124 1989.12.20


CA635

ハイパーテキスト

ハイパーテキストのアイデアが呈示されたのは1945年のことであるが,実用品が現れるようになったのは,コンピュータ科学の発達した最近のことである。アメリカ情報科学会の機関誌も本年5月に小特集を行っているが,図書館関係の雑誌も取りあげるようになってきているので具体例を紹介する。

Grapevineは英語の教師と学校図書館員が,『怒りの葡萄』を研究する学生のためにアップル社のパソコンとパイオニア社のレーザーディスクプレーヤを組合わせて作ったものである。利用者に1930年代のアメリカを音や画像も含めて理解させることを目的としている。

利用者がプログラムを立ち上げると,キーボードとマウスの使い方から始まるが,これはスキップすることができる。個々の文献にはじから目を通していくことも,全体の構成を概観することもできる。ガイドの画面は,文献,情報,解説,物語,プレゼンテーションの五つに分かれている。

たとえば,文献の部分には,レコード,カセット,テレビ,図書,映画フィルムの絵(アイコン)があり,生情報の部分には,イメージ,音,引用,人名と見出しをつけられた絵がある。マウスで情報の人名にカーソルを合わせてクリックすると,当時の重要人物の伝記情報が表示されるので興味のあるものを選んで画面で読めばよいのである。その時にマウスで選択すると,その人物が演説している姿と音声が現れたりする。人名については,何をしたのは誰か選べなどというクイズも用意されている。次に解説の部分に移ると,Aで始まる農業からVで始まる暴動まで31のミニエッセイが用意されている。その中からユートピアを選び教育活動をクリックすると関連する課題や教材が表示され,その中には当時の移住労働を楽天的に扱ったイラストも含まれている。利用者がプログラムの修正やデータの書きこみ,削除をすることも可能である。

ハイパーテキストは本来,小単位に分けられたテキストを順番にではなく思いつきで自由に読みあさることを意味しているが,この例のように技術の進歩と共に階層化・複合媒体化している。このため,ハイパーメディアまたは,対話型複合媒体と呼ぶこともある。要するに,一冊のモノグラフを途中の章から読み始め,登場人物の伝記情報を調べたりしながら,脚注の文献を参照し,ついでに背景となった場所の地理風俗の画像を見て心覚えの書きこみをし,それから第1章にもどったりするということが,単一の媒体上で可能になっているわけである。作成サイドにおいては単位文献の設定と連結,収録情報の範囲の設定などの問題がある。

坂本 博

Byles, Torrey. A context for hypertext: some suggested elements of style. Wilson Library Bulletin 63 (3) 60-62, 1988.
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Campbell, Robert. (I learned it) through the Grapevine: hypermedia at work in the classroom. American Libraries 20 (3) 200-205, 1989.
Farmer, Linda. Hypertext: links, nodes and associations. Canadian Library Journal 46 (4) 235-238, 1989