CA1913 – 図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用促進の取り組み ―静岡大学附属図書館の事例― / 杉山智章, 中川恵理子

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カレントアウェアネス
No.334 2017年12月20日

 

CA1913


 

図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用促進の取り組み
―静岡大学附属図書館の事例―


静岡大学附属図書館:杉山智章(すぎやまともあき)
静岡大学附属図書館:中川恵理子(なかがわえりこ)

 

1. はじめに

静岡大学附属図書館(以下、当館)では2015年10月1日から国立国会図書館(NDL)の図書館向けデジタル化資料送信サービス(以下、「図書館送信」)を導入し、閲覧および複写サービスを利用者に提供している。

 本稿では、当館における「図書館送信」の利用促進について、主に静岡大学附属図書館OPAC(1)(以下、OPAC)の利便性向上の取り組みを中心に述べたい。

 

2. 経緯

 「図書館送信」導入時の広報は、当館ウェブサイトに利用案内ページ(2)を作成し、トップページへのお知らせ掲載を行った。また図1のようなポスターを館内外に掲示し、ちらしを配布した。さらに全教員宛てに、ちらしのファイルを電子メールで送信した。

 

図1 ポスター原稿

 

 導入から数か月は、利用申し込みはほとんどなく、レファレンスカウンターでの文献所在調査によって、「図書館送信」に収録されていることが判明した際に、利用者に案内していた。日本語資料の検索について、当館では利用者に国立情報学研究所(NII)が提供しているCiNii(3)を中心に案内しており、多くの利用者にとって「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下、「デジコレ」)を利用する機会がなかった(4)。しかし、利用者からの学外へのILL文献複写・相互貸借申し込みの中に、依頼前の所蔵調査の段階で「図書館送信」収録コンテンツがあることがわかるケースが見受けられるようになり、ナビゲーションを改善する必要性が高まっていた。

 当館では、いわゆるディスカバリーサービス(CA1772参照)は未導入であり、利用者に提供している学内資料検索の手段はOPACのみである。利用者には、ILL文献複写・相互貸借申し込み前には必ずOPACを確認するよう案内している。なお、OPACでは所蔵資料の他にも、契約中またはオープンアクセスの電子ジャーナル・電子ブックを検索できるようにしている。

 そのため、OPACとは別に「デジコレ」を検索することを利用者に案内するよりも、両者をまとめて検索できるようにしたほうがより効果的であると考え、「デジコレ」収録コンテンツのうち「図書館送信」資料と「インターネット公開」資料を、OPACで電子ジャーナル・電子ブックとして検索できるようにすることにした。

 

3. OPACへの「デジコレ」書誌情報取り込み

3.1. 取り込みにあたって

 本学が採用している図書館業務システムでは、電子ジャーナルはcsvファイル、電子ブックはCATP形式(5)で、書誌の一括登録・削除が可能である。「デジコレ」についても、この機能を利用して、書誌情報の管理を行うことにした。

 「デジコレ」の書誌情報は、NDLが公開しているデータセット(6)を使用した。このうち、「インターネット公開」資料と「図書館送信」資料の図書および古典籍(以下、図書)、雑誌を取り込み対象とした。

 

3.2. 雑誌の取り込み

 雑誌は図書に比べて対象書誌が少なく、システム上取り込みも簡単であるため、2016年3月に「デジコレ」の雑誌の新規登録を行った。登録件数は1万939件で、処理には約1時間かかった。

 

3.3. 図書の取り込み

 図書の対象書誌は約95万件と大量であったため、2017年2月の図書館業務システム更新の仕様書に「デジコレ」書誌情報のOPAC取り込みについて記載し、業者側で実施した。取り込みに使用するデータとして、データセットを当館で表のとおりCATP形式に変換したものを業者に提供した。
 

表 データセットのCATP形式への変換

CATP項目 内容
TRD タイトル.巻次△/△著者
ED 版表示
PUBL 出版者
PUBDT 出版年
PTBTR シリーズ
NOTE 公開範囲△:△“図書” もしくは “古典”
原本の形態:△冊数(ページ数・大きさ)
ISBN ISBN
IDENT URL
*太字はデータセットの項目名、△はスペースを表す。

 

 なお、本学の図書館業務システムは、アクセス先を記述するIDENTの表記についてカスタマイズをして、ローカル定義項目を設けており、指定のフォーマットで記述することで、利用条件等をOPAC上に表示することができる。

 この機能を利用して、利用者がOPACの検索結果一覧および詳細画面から「デジコレ」の利用条件を確認できるよう、業者が取り込んだ書誌の当該ローカル定義項目のメンテナンスを、2017年4月までに行った(7)。これにより、図2のようにOPAC検索結果に、「インターネット公開」資料は「国立国会図書館デジタルコレクション フリー」、「図書館送信」資料は「国立国会図書館デジタルコレクション(静岡本館レファレンスカウンター・浜松分館カウンターへ[平日9:00-12:30, 13:30-17:00] )」と表示され、クリックすると該当するコンテンツのページに遷移できるようになった。

 

図2 OPAC検索結果一覧画面

 

3.4. システム更新後のメンテナンス

 包括的な書誌情報の取り込みはシステム更新時に完了したが、今後も「デジコレ」で新たに公開される資料や公開範囲が変更される資料があるため、定期的にOPACの書誌情報のメンテナンスを行う必要がある。

 当館では、OPACに登録している電子ジャーナル・電子ブック書誌のメンテナンスを毎年1回行っているが、今後は「デジコレ」書誌情報についても同じ時期に更新していく予定である。

 図書はURLをキーにして、OPACに登録されている書誌情報と最新データセットとの差分を抽出し、新規登録・削除を行う。また、URLと公開範囲をキーにして、「インターネット公開」と「図書館送信」の間で公開範囲が変更になった資料についても抽出し、更新を行う。

 一方、雑誌は収録年に変更のある可能性があるため、OPACに登録されている書誌情報を一旦すべて削除し、最新のデータセットから作成した書誌情報を再登録する。

 上記の方法で、2017年3月、システム更新後に初めて「デジコレ」書誌情報のアップデートを行った(8)。図書は新規登録5万3,528件、公開範囲の修正1,507件、削除1,095件(9)で、処理に約28時間かかった。雑誌の再登録は1万1,055件で、約1時間かかった。

 

4. 得られた効果

 OPACに「デジコレ」の書誌情報の取り込みを行って最初に現れた効果は、図2の画面についてカウンターへの問い合わせが多くなったことがあげられる。利用者はウェブサイトやちらしの利用案内を読まずに、カウンター対応で利用方法を知る場合がほとんどである。つまり、OPACで検索できなければ、利用者はこれらの資料を知る機会がなかったことになり、取り込みの効果は大きいといえる。

 図3の月別利用統計では、2017年4月から8月の合計は閲覧73件(10)、複写115件で、昨年同時期(2016年4月から8月)の閲覧12件、複写42件に比べて閲覧は6.1倍、複写は2.7倍に増加した。図書の取り込み以降の閲覧の増加が顕著である。とくに、2017年8月は学生の休暇期間のため、2016年8月の閲覧は0件であったのに対し、2017年8月は17件であった。例年10月以降の後学期は、卒業論文等の執筆のため図書館利用が多くなるので、「図書館送信」の利用もさらなる増加が見込まれる。

 なお、OPACは静岡県立中央図書館が提供する県内図書館横断検索システム「おうだんくんサーチ」(11)にも参加しており、電子ジャーナル・電子ブックも検索対象としている。また、当館では「おうだんくんサーチ」を用いたILLシステムで、県内の公共図書館と相互貸借を行っている。取り込み後には、それまでほとんどなかった電子ブックへの誤った貸借依頼が見受けられるようになった。その都度、デジタル化資料であることを説明して依頼を謝絶しているが、「図書館送信」への潜在的なニーズの高さがうかがえる。

 

図3 月別利用統計(静岡大学附属図書館本館)

 

5. 今後の課題

 3.4.で述べたとおり、OPACに取り込んだ「デジコレ」書誌情報のメンテナンスに時間がかかることが課題である。

 また、2017年3月に行ったメンテナンスでは、図書の新規登録が5万件以上あった。今後は毎年1回のアップデートを予定しているが、OPACの「デジコレ」書誌情報と実際に「デジコレ」で利用できるコンテンツとの差異がアップデート直前は大きくなることが予想される。

 これらの課題を解決する方法として、NDLのOAI-PMH(12)提供サービスを利用することが考えられる。2017年5月より、OAI-PMHで「デジコレ」のデータを取得する際に資料種別や公開範囲を指定することが可能になったため(13)、今後はOAI-PMHを利用してOPACの「デジコレ」書誌情報を機械的に最新の状態に維持できるよう検討を進めている。

 また、「デジコレ」に収録されている博士論文は、それまでILLの依頼があまりなかったため一旦は取り込みを見送ったが、OPACで検索できることで利用促進が期待されるため、今後の取り込みを検討していきたい。

 

(1)“静岡大学附属図書館OPAC”. 静岡大学附属図書館.
http://www.lib.shizuoka.ac.jp/opac/, (参照 2017-09-28).

(2)“国立国会図書館 図書館向けデジタル化資料送信サービス”. 静岡大学附属図書館.
http://www.lib.shizuoka.ac.jp/denshi/?ndldigi, (参照 2017-09-28).

(3)CiNii.
http://ci.nii.ac.jp/, (参照 2017-09-28).

(4)学内の学生向け『図書館利用のてびき』を毎年作成しているが、2017年度版から「デジコレ」の案内を加えた。
“Library Navigator 図書館利用のてびき 2017”. 静岡大学附属図書館.
http://hdl.handle.net/10297/10017, (参照 2017-09-28).

(5)CATP(Cataloging information Access & Transfer Protocol)とは、NIIの新目録所在情報システムにおけるクライアントとサーバ間のメッセージ交換方式を規定するプロトコルである。国内の大学・研究機関の図書館業務システムは、標準的でCATP形式での書誌の取り込みに対応している。

(6)“オープンデータセット”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/opendataset.html, (参照 2017-09-28).

(7)業者側での「デジコレ」書誌情報取り込みの際、本学のカスタマイズ項目を同時に取り込むことができなかったため、システム更新後に当館で別途メンテナンスを行った。

(8)システム更新時には、当時最新であった2016年7月時点のデータセットを使用したが、3月のメンテナンスでは2017年1月時点のデータセットの内容に更新した。

(9)削除対象には「デジコレ」での公開が終了したもののほか、公開範囲が国立国会図書館内のみに変更になったものも含む。

(10)閲覧は1回の利用(原則として1時間以内)を1件として集計しているので、資料件数とは異なる。

(11)“おうだんくんサーチ”. 静岡県立中央図書館.
http://mets.elib.gprime.jp/oudankun-search_pref_shizuoka/, (参照 2017-09-28).

(12)OAI-PMHとは、データの自動収集によってメタデータを交換するためのプロトコルである。
“国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMH”. 国立国会図書館サーチ.
http://iss.ndl.go.jp/information/api/oai-pmh_info/, (参照2017-09-28).

(13)“OAI-PMHのサービス再開及び機能追加のお知らせ”.国立国会図書館サーチ.
http://iss.ndl.go.jp/information/2017/05/15_announce-3/, (参照2017-09-28).

 

[受理:2017-11-07]

 


杉山智章, 中川恵理子. 図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用促進の取り組み―静岡大学附属図書館の事例―. カレントアウェアネス. 2017, (334), CA1913, p. 17-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1913
DOI:
https://doi.org/10.11501/11007718

Sugiyama Tomoaki, Nakagawa Eriko.
Promotion of the Use of Digitized Contents Transmission Service for Libraries: The Case of Shizuoka University Library.