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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日
CA1724
国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組みについて
国立公文書館(以下、「館」という)は、1971年7月、当時の総理府(現在の内閣府)の附属機関として置かれ、国の機関などから移管を受けた歴史公文書等について保存管理し、一般の利用に供するなどの業務を行っている組織である。2001年、館は独法化されるとともに、アジア歴史資料センターが館の組織として新たに開設された。また、公文書のみならず、江戸幕府の紅葉山文庫等や明治政府が収集した資料等が含まれる「内閣文庫」を所蔵しており、館で保存され利用に供されている。
館におけるデジタルアーカイブの取組みは、館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所図書館が保有するアジア歴史資料をデジタルで提供する「アジア歴史資料センター資料提供システム」(CA1464参照)が本格的なデジタルアーカイブとしてサービスを開始したことに始まる(1)。さらに2005年には、国が推進する「e-Japan戦略」(2)や内閣府の懇談会等の提言を踏まえ、館所蔵資料のデジタルアーカイブ化を推進するため、「国立公文書館デジタルアーカイブ」の運用を開始した(3)。
館及びアジア歴史資料センターでは、毎年度、それぞれのデジタルアーカイブにおいて提供画像数を増加させるとともに、提供画像を活用したデジタルコンテンツを作成し、ホームページに掲載、提供している。また機会を捉え、国内外でプレゼンテーション等を行うなど、2つのデジタルアーカイブの利用促進、普及に努めてきたところである。
さて、こうした館のデジタルアーカイブ化推進については、「国立公文書館デジタルアーカイブ推進要綱」(以下、「推進要綱」という)という形で、基本的な考え方が取りまとめられている(4)。その概要は次のとおりである。
- ①国の政策や諸提言に対応
- ・我が国における良質なコンテンツの流通、発信
- ・国内外を問わず、いつでも館の所蔵資料を利用できる環境の整備・充実
- ・地方公文書館などの関係機関のデジタルアーカイブ化、連携
- ②電子的な公文書の「保存」と「利用」に向けた対応
- ・公文書館の新たな要請である電子的な歴史公文書等の「保存」と「利用」への早急な対応
- ③デジタルアーカイブの将来像を指向 ―情報知識の提供、経験の「場」へ―
- ・我が国の営みに係る人や組織、社会などの記憶、情報知識を蓄積、提供し、人々に経験、交換される公共の「場」としての存在を指向
①に示す事項は、デジタルアーカイブの推進に関する具体的な要請に対応するものであり、②は新たな責務とも言える電子公文書等の保存と利用に対応するものである。③は、より将来的な指向性を示すものである。つまり、現在のデジタルアーカイブは、資料のデジタル化とその提供を意味するが、将来的には情報知識そのものを蓄積、提供する、あるいは情報交換の「場」として機能する、他機関のデジタルアーカイブとともに我が国の「集合知」を担うものへと変化していくという方向性に対応するものである。
「国立公文書館デジタルアーカイブ」は、こうした館のデジタルアーカイブの推進に係る取組みの中核として、「いつでも、どこでも、誰でも、自由に、無料で」、館所蔵資料の目録データベースを検索し、資料のデジタル画像を閲覧できるサービスを行っている。2010年3月には、さらに分かりやすく、探しやすい、より利便性の向上したデジアルアーカイブとしてリニューアルしたところである(5)。これまでに蓄積されたデータは目録データ約120万冊分、公文書等デジタル画像約868万画像、大判・貴重資料等1,170点となっている。デジタル化し提供している主な資料としては、「日本国憲法」の御署名原本や法令案審議録、閣議案件資料、明治期に作成された「公文附属の図」や江戸期の「天保国絵図」といった歴史公文書等がある。デジタル化により、これまで利用が難しかった資料でもインターネットを通じて、気軽に利用できるようになったことは、デジタルアーカイブの大きなメリットである。
さて、館は自らの所蔵資料に関するデジタルアーカイブの構築とともに、国や地方の関係機関との連携も必要不可欠としている。そのため、デジタルアーカイブの導入に当たっては、情報連携が行えるよう国際標準等に基づく技術や仕組みを採用し、様々な形での連携を視野に入れ、その取組みを行っている。現在、組織内連携としてアジア歴史資料センターのシステムと接続しているほか、外部連携としては、国立情報学研究所の“NACSIS Webcat”との横断検索を行っているほか、国立国会図書館の“PORTA”の検索対象にもなっている。また地方の公文書館との間においては、岡山県立記録資料館、奈良県立図書情報館と接続している。
しかし、地方の公文書館におけるデジタルアーカイブの構築と連携は、これからの課題である。館では地方の公文書館に対し技術的支援を実施するため、2007年度は直接訪問しての調査・意見交換を行うなどの状況把握に努め、2008年度にデジタルアーカイブ・システムに関する標準仕様書(6)等を作成、2009年度に当該仕様書等の配布を開始した。上記標準仕様書においては、デジタルアーカイブ・システムを構築する上でのシステムに関する基本的な考え方等がまとめられており、情報連携の基本となる機能についても盛り込まれている。今後、こうした館によるデジタルアーカイブ化推進に資するための具体的な取組みを踏まえて、地方の公文書館においてもデジタルアーカイブ化が推進され、情報連携が図られることが期待されているところである。
以上、館におけるデジタルアーカイブの取組みについて、概要を述べてきたが、現在、新たな「デジタル」への対応に迫られているところである。それは、電子公文書等への対応についてである。電子公文書等については、2010年度に電子公文書等の移管・保存・利用システムを構築、2011年度からの移管等に備えることとしている。しかしながら、これは一つの通過点にすぎず、技術の移り変わりがまさに日進月歩の状況下で、今後大きな困難を伴うことも予想され、さらに、長期の保存性と利用性を確保していくための真剣な努力も必要である。こうしたボーン・デジタルを取り巻く状況は図書館界も同様であると思われるが、そこでの知見、ノウハウなども参考にしながら、取り組んでいきたいと考えている。
国立公文書館:八日市谷哲生(ようかいちや てつお)
(1) アジア歴史資料センター.
http://www.jacar.go.jp/, (参照2010-07-09).
(2) 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部. “e-Japan戦略”. 首相官邸. 2001-01-22.
http://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/1siryou05_2.html, (参照 2010-07-09).
(3) 国立公文書館デジタルアーカイブ.
http://www.digital.archives.go.jp/, (参照2010-07-09).
「国立公文書館デジタルアーカイブ」の概要については、次を参照。
国立公文書館. デジタルアーカイブ. アーカイブズ. 2005, (21), p. 1-38.
http://www.archives.go.jp/about/publication/archives/021.html, (参照2010-07-09).
(4) “独立行政法人国立公文書館デジタルアーカイブ推進要綱”. 国立公文書館. 2009-04-01.
http://www.archives.go.jp/owning/d_archive/pdf/youkou.pdf, (参照2010-07-09).
(5) “インターネットから、歴史資料の宝庫へ 「国立公文書館デジタルアーカイブ」がリニューアル 3月1日より、運用開始”. 国立公文書館. 2010-03-01.
http://www.archives.go.jp/news/pdf/100301_01_02.pdf, (参照2010-07-09).
(6) “デジタルアーカイブ・システム標準仕様書”. 国立公文書館.
http://www.archives.go.jp/law/pdf/da_100118.pdf, (参照 2010-07-09).
八日市谷哲生. 国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組みについて. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1724, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1724