カレントアウェアネス
No.240 1999.08.20
CA1270
ドイツにおけるネットワーク資源の組織化の試み(3)
3.3 ダブリン・コアの応用
メタデータの利点の一つは,著作者自身に作成を委ねることができることにあると述べた。しかし,著作者の自由に任せるということは,一方でデータ内容の不統一,データ水準の低下を招く恐れを伴っているともいえる。こうしたことを懸念して,ダブリン・コアの基本要素に別の要素を追加したり,適用細則を作るなど,図書館員の編集により,図書館員の要求に応えうる品質のデータを維持しようとする「ストラクチュアリスト」的な対策をとろうとする動きが出てくるのも理解できるところである9)。次に取り上げる2例は,いずれもこうした流れに含まれると解してよいであろう。
3.3.1 バーデン・ヴュルテンベルク図書館サービス・センター(BSZ: Bibliotheksservice-Zentrum Baden-Wurttemberg)
BSZでは,南西ドイツ図書館連盟電子デポジット(SWB-E-Depot: Elektronisches Depot des Sudwestdeutschen Bibliotheksverbunds)というプロジェクトを進めており,その一環として電子資料の組織化が検討されている10)。
BSZにおける組織化の基本的なプロセスは,最初に著作者が基礎的なメタデータを作成し,それに図書館員が手を加えて信頼性の高いデータに仕上げるというものである。前にも触れた通り(CA1263参照),BSZはDC-Meta-Makerというメタデータ作成のためのページを提供している11)。このDC-Meta-Makerなどを使って作成されたメタデータをSWBのデータベースに取り込み,著者名,件名の典拠コントロールなどの編集を図書館の側で行い,完全なメタデータに仕上げるというプロセスが想定されているのである12)。
BSZでは,「BSZにおけるダブリン・コア解釈」という適用細則を公表しているが13),一般の人々がこの規則をきちんと参照して入力するということは,まず考えられないことであるから,これは主に図書館員を対象にした規則と考えてよかろう。この適用細則の一部を,ダブリン・コアの第2の要素のCreatorを例にとって紹介することにする。
著者名については,個人名の場合は,PND(Personennamendatei),団体名の場合はGKD(Gemeinsamen Korperschaftsdatei)という,それぞれ個人名及び団体名の典拠データに従った形で記述するか,あるいはLCの著者名典拠ファイルに従った形で記述するのがBSZの規則となっている。個人名の場合はNAME,団体名の場合はCORPORATEというqualifierを使用し,ピリオドの後に続けて記述する。したがって,具体的には,個人名の場合は,< META NAME=”DC.CREATOR.NAME”CONTENT=”Starkmann, Arnim von” >,団体名の場合は,< META NAME=”DC.CREATOR.CORPORATE” CONTENT=”Bibliotheksservice-Zentrum Baden-Wurttemberg” >というようになる。なお,BSZではCreatorは必須項目になっているため,DC-Meta-Makerでここの部分を空白にしてデータ送信をするとエラーメッセージが返ってくるようになっている。
同じように,ダブリン・コアの15の基本要素すべてについて適用細則が定められ,データの高品質化と標準化が図られている。これはあくまでもダブリン・コアに準拠した規則であって,BSZ独自のルールというわけではないので,ダブリン・コアの側で新たな規則の制定,変更があった場合には,当然BSZのルールの方も変化を被ることになる。
3.3.2 ノルトライン・ヴェストファーレン州大学図書館サービスセンター(HBZ: Hochschulbibliothekszentrum des Landes Nordrhein-Westfahlen)
HBZが,ノルトライン・ヴェストファーレン州の大学との協力の下に構築している電子図書館NRW(Digitale Bibliothek NRW)14)における電子資料の組織化の柱の一つも,ダブリン・コアによるメタデータである。電子図書館NRWにおいても,一方で著作者や出版者によるメタデータの作成を期待しつつも,他方で独自のダブリン・コアの適用細則を作成し,データ品質の管理を図ろうとしている。HBZでは,ダブリン・コアの2つの要素,対象範囲(Coverage),情報源(Source)については,利用者のニーズがなかろうとの判断から省略しているため,適用細則が定められているのは,残りの13の要素についてのみである。
前のBSZと比較するため,ここでもまたダブリン・コアの第2の要素Creatorの部分についてその内容を見てみることにしよう。HBZでは,この要素を必須項目としていたBSZと異なり,ここを選択項目としている。qualifierもBSZとは異なり,個人名の場合は,PersonalName,団体名の場合は,CorporateNameとなっている。BSZでは,記述方法は,PND,GKDあるいはLCに倣うとされていたが,HBZでは,特にその点に関する言及はない。このように,同じダブリン・コアに準拠していても,データ記入の方法にかなりの違いができてしまっているのが現状である。
とはいえ,標準化に向けた機運が全くないというわけではない。電子図書館NRWのワーキンググループは,ドイツ教育学会やドイツ数学者連盟など5つの学術団体が中心になって推進している「学位論文オンライン(Dissertation Online)」15),そして2.2で述べたDDBによるオンラインの学位論文の収集(CA1257参照)といった他のプロジェクトの担当者と協議を重ね,メタデータ・フォーマットの標準化を検討している。その結果として,学位論文については,他のプロジェクトの規則へ歩み寄る形で特別の規則が設けられている。例えば,先程選択項目と述べたCreatorについて,学位論文に関する限りは必須にするといった特則が定められている。
電子図書館NRWでは,メタデータの利用の他に,MILOSというインデックス作成システム16),また自動的に分類付与を行うGERHARDというソフト17)を使用することによって,主題分析に関わる作業の省力化を計画している。
4.おわりに
以上の内容が示すように,ネットワーク上の資源の組織化の方法については,様々な方法が試されており,標準的な手法はまだ確立されていない。こうした現状に対し,ドイツ図書館界の主要4機関,ゲッティンゲン国立大学図書館(SUB Gottingen:Staats-und Universitatsbibliothek Gottingen),DDB,バイエルン国立図書館(BSB:Bayerische Staatsbibliothek),ドイツ図書館研究所(DBI:Deutsches Bibliotheksinstitut)は,ドイツ学術協会の支援の下にMETA-LIBというプロジェクトを立ち上げ,各機関に担当を割り振って,ネットワーク上の資源の組織化をめぐる課題についての調査研究活動を進めている18)。SUB Gottingenはすでに特定の学問分野で利用されているメタデータや国際的な検討(特にダブリン・コア)を視野に入れたデジタル資料の目録規則作成のための基礎研究,DDBは全国書誌として記録すべきネット上の出版物の選択とその組織化の方法の研究,BSBは様々な目録規則やデータフォーマットによって作成された各種メタデータを統一的な環境で検索する方法の検証,DBIはプロジェクト全体の調整をそれぞれ担当している。
1998年6月には,META-LIBプロジェクトの第1回ワークショップがSUB Gottingenで2日間にわたって開催され,内外のメタデータの動向について様々な観点からの検討が加えられた19)。その場で特に議論となったのは,ダブリン・コアの評価の問題であったという。ダブリン・コア否定派は,ダブリン・コアのような不十分な基準に準拠していては,ダブリン・コアのコミュニティによるその時々の決定に振り回される懸念がある。RAK-NBMは,ダブリン・コアで議論されている問題について,すでに解決策を示しているのであるから,これを適用規則として採用する方が有効なのではないか,という意見を述べている。このワークショップに関する限りでは,こうした否定派の意見の方が優勢であったという。それに対し,ダブリン・コア支持派は,ダブリン・コアの目的は全世界の学者が手軽に使えること,検索効率を向上させることを目的として発達してきたものであり,ドイツ語圏にしか通用しないRAK-NBMはこうした目的には不向きであると反論している。すなわち,本稿でもすでに指摘した,RAKの伝統か準国際標準のダブリン・コアかという図式がこのワークショップでも繰り返されたということである。
今後この両者の綱引きがどちらの方向に収斂していくのか,ここで断定することはできないが,全国書誌という国内的なレベルで考える場合は別として,大勢はダブリン・コアを基礎に置く手法の方向に向かっているように思われる。今年10月には,ダブリン・コアの第7回のワークショップの開催がDDBで予定されており,これを契機にダブリン・コアをめぐる議論はさらに活発化することであろう。
山岡 規雄(やまおかのりお)
注
(9) これまでは,比較を明確にするため,図書館員の手間がかかるRAK-NBMのデータと図書館員の手間がかからないメタデータという単純な図式化を行ったが,メタデータの場合も,こうした「ストラクチュアリスト」的なアプローチをとる限りでは,RAK-NBMを使う方法とさほど本質的な違いはなくなるというべきである。RAK-NBMを使う方法であっても既存のメタデータを利用することによって作業の省力化は可能であるし,もともとメタデータのない文書であれば,図書館員が一から書誌記述をしなければならないのは,メタデータの場合もRAK-NBMの場合も同じであるからである。
(10) http://www.swbv.uni-konstanz.de/wwwroot/s71800_d.html
(11) 注(9)(CA1263参照)
(12) http://www.swbv.uni-konstanz.de/wwwroot/metadata/kz_dcg03.gif
(13) http://www.swbv.uni-konstanz.de/wwwroot/metadata/kv_dc015.html 及びhttp://www.swbv.uni-konstanz.de/wwwroot/metadata/kv_dc022.html
(14) http://www.hbz-nrw.de/DigiBib/
(15) http://www.educat.hu-berlin.de/diss_online/kurzproj.html
(16) http://www.uni-duesseldorf.de/WWW/ulb/mil_home.htm
(17) http://www.gerhard.de/
(18) http://www.ddb.de/partner/index.htm
(19) Essen, F.v. Metadaten-neue Perspektiven fur die Erschliesung von Netzpublikationen in Bibliotheken: Erster META-LIB-Workshop in Gottingen. Bibliotheksdienst 32 (11) 1931-1938, 1998