CA1257 – ドイツにおけるネットワーク資源の組織化の試み(1) / 山岡規雄

カレントアウェアネス
No.238 1999.06.20


CA1257

ドイツにおけるネットワーク資源の組織化の試み(1)

1. はじめに

ネットワーク上の資源をいかにして組織化していくかという問題を取り扱っている文献の前書き部分には,必ずと言っていいほど,インターネットにおける情報検索の非効率性の問題が提起されている。今回,筆者も本稿を執筆するに当たって,いくつか参考情報を求めてインターネット上で文献探索を行ったが,検索ノイズの多さに辟易することが何度かあった。時間に余裕があれば,ノイズとして引っかかってしまったサイトをのぞいてみるのもインターネットの楽しみの一つであるとも言えるかもしれないが,寄り道しないで短時間で必要な情報を手に入れたいというのが検索者の普通の心理であろう。

ではどうすれば必要な情報に素早くアクセスできるのであろうか。その一つの対策として考えられるのは,インターネット上の文書を組織化して,検索し易い形に整理することである。電子化時代を迎えて,一時期消滅の危機感さえ抱いていた図書館が新たな役割を見出したのがまさにこの点,ネットワーク上の資源の組織化であった。しかし,一口に組織化といっても,従来の紙媒体の資料で行ってきた組織化作業がそのまま適用できるわけではない。世界的に見ても,現在この課題に対する決定的な解答は出されているとはいえず,そうした事情はドイツにおいても同様である。したがって,以下に述べる事例は,標準的な方法の確立に向けた過渡的な取り組みとして位置づけられるべきである(1)

2. RAK-NBMによる組織化

2.1 RAK-NBMの概要

ネットワーク上の資源の組織化としてまず考えられるのは,伝統的な目録規則の手法を発展させて対応しようとする方法である。ドイツにおける目録規則のスタンダードは,アルファベット順目録規則(RAK: Regeln fur die alphabetische Katalogisierung)である。RAKはAACR2のように一冊にまとまった規則ではなく,資料別あるいは館種別の分冊という形で刊行されてきている規則であり,1996年には,映像資料などを主な対象とするRAK-AVに電子出版物に関する規定が加わったRAK-NBM(Regeln fur die alphabetische Katalogisierung von Nichtbuchmaterialien)が刊行された。このRAK-NBMの登場により,インターネット上の資源の組織化における標準的な目録規則が一応完成されたことになった。RAK-NBMは,それまでのRAKシリーズの延長として作成されているため,RAK-NBMを利用した組織化には,これまで作成してきた紙媒体の資料の目録との整合性が保たれるという利点がある。

2.2 ドイツ図書館(DDB: Die Deutsche Bibliothek)

DDBは,納本図書館としてドイツ国内で刊行された出版物を収集する義務を負っているが,現在電子出版物について納入義務が及ぶのは,CD-ROMなど物理的に確定された形態の資料に限られている。したがって,インターネット上の電子出版物は納入対象には含まれていなかったわけであるが,1998年7月からDDBは,学位論文を中心にネットワーク上の電子出版物の収集を実験的に開始している(CA1204参照)。そこで集められる電子出版物の目録作成に利用されているのが,RAK-NBMである。資料不足のため,本稿では実例を紹介することができないが,RAK-NBMに従って作成された目録データは,DDBのOPACで検索することが可能であり,全国書誌のデータにも編入されているとのことである(2)

2.3 WebDOC

RAK-NBMを用いて目録作業を行っているもう一つの例が,WebDOCというプロジェクトである(3)。これは,オランダのPICA社の調整の下に,オランダの図書館(王立図書館,アムステルダム大学図書館など),出版社(Kluwerなど),ドイツの図書館(ゲッティンゲン国立大学図書館,ハンブルク国立大学図書館など)が参加しているプロジェクトで,学術雑誌,学位論文といった学術情報の参加組織内での電子的な流通を目的としたプロジェクトである。WebDOCにおいては,各参加組織が保有する電子的リソースの目録情報をすべてPICAの総合目録に登録することになっている。その際使用される目録規則がRAK-NBMである。もう少し正確な言い方をすると,使用されている目録規則の一つがRAK-NBMである。先にも述べた通り,このプロジェクトにはオランダの図書館も参加しており,主としてドイツ語圏でしか通用力を持たないRAK-NBMを共通の目録規則にするには無理があるということで,WebDOCでは,適用する目録規則は,各参加組織が自由に選べることにしているのである。しかし,自由といっても,全くの自由に委ねてしまうと,総合目録としての統一性が失われてしまうため,「電子文書のカタロギングのためのガイドライン」(4)を作成し,各参加組織に準拠すべき基準を提示している。したがって,RAK-NBMは,ストレートに適用されるのではなく,いくつかの部分について変更が加えられた形で適用されているのである。

この「ガイドライン」に従い,RAK-NBMを適用して作成された電子的な文書の目録情報の例を示すと,次のようになる。

0500 Oau
1100 1995
3010 Kevin@Hughes
4000 From webspace to cyberspace/$ 3101
4020 Version 1.1: July 1995
4030 Menlo Park, Cal.: Enterprise Integration Technologies
4031 Gottingen: Niedersachsische Staats- und Universitatsbibliothek [Host]
4060 264 p.=3,4 Mb, text
4083 pdf=A http://www.webdoc.sub.gwdg.de/edoc/aw/hughfrom.pdf
207 The state of the Internet is an indicator of how we choose to act and react and of the ways in which we inform, learn, and dominate aver others. Cyberspace is an interconnected [usw.]…..
5301 !10640315X!06.00 Information und Dokumentation

「ガイドライン」の解説に従って若干の説明を加えると,まずカテゴリー0500は,資料の種別,記述の水準を表しており,「O」は「オンライン・リソース」を表すコードである。その次の「a」はモノグラフ,「u」はデータの記述が完全であることを表している。カテゴリー4031はその文書を保存し,データ提供をしている主体を表している。カテゴリー4060は,数量を表すとともに,文字情報(text)であるか,画像情報(image)であるか,動画(video)であるかといった情報の形態に関する情報もここに記入することになっている。カテゴリー4207(5)には抄録が記録される。抄録は,原則として英語で表記し,ドイツ語で表記する場合は,英語のキーワードを付与する等々の規則が定められている。カテゴリー5301は分類を表している。「ガイドライン」は特に使用すべき分類表については指示していないので,分類についても各参加組織の裁量に任されているのであろう。

2.4 RAK-NBMの問題点

以上RAK-NBMの利用例を2つ紹介したわけであるが,実際のところこの方法を採用しているのは,少数派にとどまっているようである。国際的な通用力を持たないということが,敬遠されるまず一つ理由である。DDBの場合は,ドイツの出版物の収集・保存義務という地域的な枠が存在する上に,これまで作成してきた全国書誌への統合を考慮しなければならないという事情があるため,RAK-NBMを採用することにはそれなりの根拠がある。しかし,WebDOCの例でも明らかなように,海外の機関と連携してサービスを展開していくとなると,RAK-NBMをそのまま適用するという方法で押し切ることはできなくなる。

また,もう一つRAK-NBMが好まれない理由は,組織化に要する労力の大きさである。従来の紙媒体の資料に加えて,ネットワーク上に存在する資源についてまで目録を作成している余裕はないというのが,多くの図書館の実情であろう。DDBが,電子出版物の収集実験の対象を,現在のところ,学位論文という数の限定されている資料に限っているのも,そうしたことが一因となっているのであろう。

それでは,国際標準に適合していて,手間のかからない組織化の方法はないものかということになる。それへの回答が次に述べるメタデータである。〈次号に続く〉

山岡 規雄(やまおかのりお)


(1) 本稿は,次の文献に負うところが大きい。Lauber-Reymann, Margrit. Erschliessung von Internet-Dokumenten. [http://www.bib-bvb.de/bibschule/Bibsch6.htm
(2) [http://deposit.ddb.de/home.htm
(3) Cremer, Monika. WebCAT: Erfahrungen bei der Katalogisierung von Internet-Dokumenten an der SUB Gottingen im Rahmen des WebDOC-Projekte. Bibliotheksdienst 30(8/9)1401-1417, 1996. また,WWW上でも同じ内容の文書が公開されている。[http://webdoc.sub.gwdg.de/ebook/aw/bt96/cremer.htm
(4) [http://www.brzn.de/katricht/inhalt.html]このガイドラインのオリジナルは,英語で書かれているが,これはそのドイツ語版である。
(5) 例では「207」となっているが,「4」が抜け落ちている理由は不明である。