E949 – 世界最古級の聖書,ヴァーチャル空間で復活

カレントアウェアネス-E

No.154 2009.07.22

 

 E949 

世界最古級の聖書,ヴァーチャル空間で復活 

 

 4世紀半ばに作成され,現存する世界最古の聖書の1つと言われる「シナイ写本(Codex Sinaiticus)」がデジタル化され,このほどオンラインで公開された。シナイ写本は,新約聖書の全体と旧約聖書の七十人訳聖書(Septuagint)を含む,聖書のギリシャ語写本である。英国図書館(BL),ロシア国立図書館(サンクトペテルブルグ),ドイツのライプチヒ大学,エジプトの聖カタリナ修道院が写本の一部をそれぞれ分け持っていたが,2005年に4組織が協同プロジェクトを立ち上げ,デジタル化作業を進めた結果,シナイ写本800ページ以上のヴァーチャル空間での再結合が実現した。

 協同プロジェクトの主要な目的は,(1) シナイ写本の新たな歴史研究の発表,(2) シナイ写本の保存,デジタル化,翻刻作成である。写本の保存に当たって,全てのページの物理的な状態が確認され,補修が施された。こうして補修されたページは,ウェブサイトでも文字が読めると同時に,素材とインクの自然な外観を再現できるよう,光の当て方や背景色にまでこだわって,デジタル化のため撮影された。これらの作業は,共通の方法や基準に基づいて,英国,ロシア,ドイツ,エジプトの4か所でそれぞれ行われた。さらに,英国とドイツのチームが,電子版の翻刻を作成した。すべての文字がプレーンテキスト化され,修正箇所やレイアウトの特徴などの注目すべき点は,必要に応じて表示,検索,分析が可能なようにタグが付けられた。

 以上のような努力の成果として,ヴァーチャル空間での写本のページの再結合,ページ画像とテキストデータとのリンク,各国語訳の作成,ページの素材とインクの確認といったことが実現した。このオンライン版シナイ写本を活用することによって,研究者たちには,初期キリスト教の発達や世代から世代への聖書テキストの伝達といったことを,これまで以上に深く研究する道が開かれた。

 なお今回のプロジェクトの成功を記念してBLでは,2009年7月6,7日に,“シナイ写本:テキスト,聖書,書籍”と題された学術会議が開催されたほか,7月6日から9月7日まで,“羊皮紙からピクセルへ:シナイ写本のヴァーチャル再結合”という展示会を開催している。展示会ではシナイ写本やこのプロジェクトに関連する資料に加え,BLが所蔵するシナイ写本が初めて一般公開されている。

Ref:
http://www.codexsinaiticus.org/en/project/default.aspx
http://www.bl.uk/news/2009/pressrelease20090703.html