カレントアウェアネス-E
No.150 2009.05.27
E925
OCLCによる“ウェブスケール”図書館業務管理システム構築戦略
2009年4月23日,OCLCはクラウドベースの図書館業務管理システムを構築する戦略を発表した。これは,システムの共同利用を目的としたものであり,ウェブベースという点ではSaaS(Software as a Service)に類似しているが,すべての参加館が同一のハードウェア,アプリケーション,データを共有することで,情報探索の質の向上やメタデータ管理などにおける「ネットワーク効果」が得られることを特徴としている。また,統一されたプラットフォームを用意することで,ユーザ・エクスペリエンス(サービスの利用を通じて利用者が認知する有意義な経験)の質を向上させると共に蔵書管理のトータルコストを減らすことを目標としている。
提供が予定されている機能は,貸出管理,資料管理,印刷媒体/電子媒体の蔵書構築(選書,受入,電子資源管理(ERM)など),ライセンス管理などである。また,集積されたデータを用いて,蔵書評価,利用統計,リアルタイムの貸出データ,推薦機能などを管理するツールの作成が計画されている。
これらの機能はWorldCat Local(E643参照)へのコンポーネントとして今後リリースされるが,その第1段として,OCLCの有償サービス“FirstSearch”の導入館がWorldCat Localを追加費用なく利用できるWorldCat Local“quick start”の開始が予定されている。このサービスにより,ローカライズされた検索インタフェースを用いて,自館の情報資源とともにWorldCatやその他ウェブ上の資源の検索も可能となる。
このOCLCの戦略に対しては,図書館システムを提供する他のベンダーやライブラリアンがさまざまな反応を示している。各種の図書館パッケージシステムにとってはビジネス上の脅威であると不安を表明しているベンダーがある一方で,大規模図書館はシステムを保有し続けるため,中小規模の図書館しか興味を持たないのではないか,といった予測もある。またこうした営利企業との競合においては,非営利法人のOCLCは税制が優遇されている点で優位にあり,不公平である,との見解もある。その他にWorldCatレコードの利用・再配布(E864参照)に関するポリシーに関連して,利用統計等のデータもOCLCが集中管理することに対して懸念を示し,まずはポリシーの問題を解決すべきだという意見もある。
2009年6月には試験導入館が発表される予定となっている。他ベンダーの動向と共に今後のOCLCの事業展開が大いに注目される。
Ref:
http://www.oclc.org/news/releases/200927.htm
http://www.oclc.org/productworks/webscale.htm
http://www.oclc.org/worldcatlocal/quickstart/default.htm
http://www.libraryjournal.com/article/CA6654121.html
http://www.libraryjournal.com/article/CA6654793.html
http://community.oclc.org/hecticpace/archive/2009/04/and-now-for-something-complete.html
http://community.oclc.org/engineering/2009/05/what-is-web-scale.html
E643
E864