E701 – 「サイバースカラシップ」のためのインフラ構築に向けて

カレントアウェアネス-E

No.115 2007.10.17

 

 E701

「サイバースカラシップ」のためのインフラ構築に向けて

 

 共有のネットワーク越しに,高性能コンピュータを使って行われる新しい形態の学術・研究―コンピュータを利用した大量のデータ解析,主題別リポジトリやWiki,ブログなどでの最新の研究成果・アイデアの交換など―が,近年注目を集めている。デジタルコンテンツの入手可能性の拡大が産み出した,このような新しい学術・研究は「サイバースカラシップ(cyberscholarship)」あるいは“e-scholarship”などと呼ばれ,米国では全米科学財団(NSF)や米国学術団体評議会(ACLS)などが,また英国では情報システム合同委員会(JISC)が中心となって,自然科学,人文科学,社会科学など各分野でどのような貢献を果たすのか,またその課題は何か,などについて調査・研究を行っている。

 このような中,2007年4月に米国アリゾナ州フェニックスで,NSFとJISCの共催によるワークショップ「学術コミュニケーションの将来:サイバースカラシップのためのインフラ構築」が開催された。このほど公開された報告書によると,このワークショップは,2006年12月にACLSが,また2007年3月にNSFが刊行した「サイバーインフラストラクチャ(cyberinfrastructure)」に関するレポートを基盤とし,サイバースカラシップを促進するためのインフラ構築のための目標とその課題を抽出し,また今後のロードマップについて議論するものであった。

 このワークショップでは「データが主導する科学・学術(data-drivenscience and scholarship)」「技術」「組織」「変わりゆく学術コミュニケーションの世界」の4つがテーマとして掲げられた。デジタルコンテンツを可及的速やかに収集・管理・保存する必要性を改めて共通認識とするとともに,その技術的な基盤として標準やアプローチを共通化すること,国内のレベル・国際的なレベル双方で協同を進めること,科学者・技術者・人文科学研究者などが協同して学際的にインフラ構築に取り組むことなどの必要性が提起された。そして,2015年までにインフラ構築を終えるべく,向こう7年間のロードマップが提案され,最初の3年間は一連のプロトタイプの開発・テストに焦点を当て,残りの4年間で協調的なシステム・サービスの導入を行うという計画が示された。

 またワークショップでは,英国におけるJISC,オランダにおけるSURFのように,サイバーインフラに関する国内の協同を進める単一の組織が存在していない米国に対し,NSF,博物館・図書館情報サービス機構(IMLS),全米人文科学基金(NEH),米国衛生研究所(NIH),米国議会図書館(LC)といった政府系機関による協同委員会の構築が推奨された。これらの諸機関が,今後どのように活動を展開していくのか注目される。

Ref:
http://www.sis.pitt.edu/~repwkshop/
http://www.sis.pitt.edu/~repwkshop/NSF-JISC-report.pdf
http://www.nsf.gov/dir/index.jsp?org=OCI
http://www.nsf.gov/pubs/2007/nsf0728/nsf0728.pdf
http://www.acls.org/cyberinfrastructure/
http://www.acls.org/cyberinfrastructure/OurCulturalCommonwealth.pdf
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/programme_einfrastructure.aspx