カレントアウェアネス-E
No.109 2007.06.27
E663
レファレンスの記録分析で,心の行き届いたサービスを
カナダのゲルフ大学は,学生数17,000人,遠隔教育の受講生16,000人の大学であり,2001年からDocutek VR(SirsiDynix社)という専用ソフトを使用して同期型のバーチャルレファレンスサービス(VRS)を提供している。ここに2005年9月から2006年2月までに蓄積された記録約600件を分析した研究が,Evidence Based Library and Information Practice(EBLIP)誌(>CA1625参照)に掲載された。ゲルフ大学の図書館員による研究である。
記録分析により,VRSがどのように使われているかを明らかにしようとした研究はこれまでも数多く行われているが,利用者が図書館とコミュニケーションするためにどのような言葉を使用しているのかという観点で記録を分析した研究は少なく,またよりユーザ・フレンドリーなサービスにするために記録をどう生かすのかという点について言及している研究は,あまり存在しない。EBLIPに掲載されたこの研究は,内容や言葉遣いの観点で分析したものであり,この課題に切り込んでいくものである。
言葉遣いについては,利用者がほとんど使用しないのにもかかわらず図書館員が好んで使用する用語として, “periodical”,“faculty”,“catalogue”,“resources”,“interlibrary loan”などを指摘している。学生は,例えば, “catalogue”についてはTRELLIS(ゲルフ大学の目録システム)の方を好んで使用し,“resources”については“books”や“articles”など一般的な言葉を使用する傾向が顕著であるという。
また,実際の利用者の属性については,図書館の外から質問してくる学生が30%以下であるのに対し,実際に図書館の中にいる学生からの質問が60%以上をしめることなども明らかにしている。これらの結果は,単純に学生の嗜好を示すだけでなく,図書館のサインなどのわかりにくさなど,様々な改善すべき点を示唆している可能性があるという。
このような記録の総合的な分析の結果に基づいて,図書館のオンラインサービス,蔵書,関係性,職員のスキル,場所としての機能の5つの領域について,サービスを改善すべき点を検証している。図書館員にとって当たり前と思われることも当然ながら含まれるが,FAQをよりわかりやすくするための工夫など,示唆に富む改善点が示されている。
無機質なバーチャルレファレンスの記録の分析から,根拠(エビデンス)を導き出し,そしてそれを図書館サービス全般への“人のぬくもり”(personal touch)の付加に結び付けているこの研究は,現場の図書館員ならではの研究という意味で,興味深い。
Ref:
http://ejournals.library.ualberta.ca/index.php/EBLIP/article/view/236/
http://www.docutek.com/products/vrlplus/index.html
CA1625