E542 – 戦略計画はブログで立案?:ヒューストン大学図書館の試み

カレントアウェアネス-E

No.91 2006.09.20

 

 E542

戦略計画はブログで立案?:ヒューストン大学図書館の試み

 

 米国ヒューストン大学図書館は,2006年から2010年までの戦略計画“UH Libraries Strategic Directions, 2006-2010”を策定し,2006年7月に公表した。この戦略計画では,ウェブ経由のバーチャル・サービス拡大,図書館の学習・教育センター化,機関リポジトリなど学術コミュニケーションへの貢献度の強化,図書館そのものの再ブランド化の4つの柱を打ち出しており,ネットワーク技術の進化と学術情報流通の変化に図書館を対応させてゆく姿勢を示すものといえよう。  

 ここで注目すべきは,今回の計画策定にあたり図書館職員を積極的に参加させ,なおかつブログやチャット,RSSといったネット上の新技術を身につけ,業務で活用できる能力を養成する機会として利用した,ヒューストン大学図書館戦略計画策定委員会(SDSC)の巧みな戦略である。米国図書館協会(ALA)が提供するブログのひとつである“TechSource”の記事によると,まずSDSCは,職員を担当ごとに7部門に分類し,業務手順の体系化と戦略の議論を目的とするワーキンググループを結成した。議論を進めるにあたっては,スケジュール管理や掲示板,文章共有ツールといった機能を持つプロジェクト管理ツールBasecampを導入し,ワーキンググループの運営に活用した。特に,メンバーのコメント欄とコメント共有機能が,このような計画策定の作業には必要不可欠であったとされている。

 次にSDSCは,自身からの情報発信をEメールやペーパーではなく,イントラネット上に構築したブログからの発信に限定した。SDSCの発信する情報を手に入れるために,図書館職員はそれまで全く関心を示さなかったブログに関心を持ち始めた。もちろん当初の動機付けはSDSCの情報を入手するためであり,SDSCもブログに関する説明会を実施していたが,職員もブログに触れるうちに,ブログという媒体そのものや,その機能に関心を示し始めたという。やがて図書館職員の手によるブログが次々と開設され,7ヵ月後には外部向けのブログが16サイト,イントラネット限定ブログが9サイト開設されるに至り,これらのブログでは,各ワーキンググループに関する情報が掲載された。現在も各主題ごとに,担当図書館員がその主題に関するニュース,有用な情報源,図書館サービスのお知らせなどを提供するSubject Blogを公開していて,2006年9月現在,12のブログが運営されている。  

 SDSCはこのように情報公開を進めるとともに,プロジェクト管理ツールやブログ経由で,図書館職員からのフィードバックの収集を試みた。だがブログの興隆とは対照的に,フィードバックは主に,インフォーマルな形式の会話や,ワーキンググループの席上,もしくは公開された討論会で行なわれ,ネット経由ではあまりなされなかったという。ネット経由のフィードバックが低調であったことについて,新たな技術を習得して議論を進めるためには,6か月という期間は短すぎたことや,長期間にわたりフィードバックの機会を割いていたために,ワーキンググループがネット経由のフィードバックの必要性を感じなかったことが要因ではないかと,記事は伝えている。

Ref:
http://www.techsource.ala.org/index.html
http://www.techsource.ala.org/blog/2006/08/a-compelling-committee-or-the-story-of-uhlsdsc.html
http://info.lib.uh.edu/strategic_directions.pdf
http://info.lib.uh.edu/research/sub_blogs.html