カレントアウェアネス-E
No.508 2025.09.04
E2820
FAL:フランスにおける読書しやすい空間づくり
国立国会図書館関西館収集整理課・國分文音(こくぶあやね)
●はじめに
フランスでFALという取組が広まっている。FALとはフランス語で「読みやすい」の意味を持つ“Facile à lire”の略記であり、適切な本を選定し、利用のための場を提供することで、読書に困難を感じている人々が本に親しめるよう支援することを目的としている。
北欧とカナダの図書館で“easy to read squares”として始まったとされるこの取組は、フランスでは2014年にブルターニュの図書館で初めて導入され、現在はフランス国内やフランス語圏に広まっている。FALが対象とするのは、読書を全く、あるいは少ししかしない人々や、非識字者、フランス語学習者、記憶力や集中力に困難を抱える人々などである。FALCという取組(“Facile à lire et à comprendre”の略記で「読みやすく、理解しやすい」の意。障害を持つ人々のために、より簡単な言語表現を用いる情報提示の方法のこと)の対象となり得る、認知的・精神的な障害を持っていることを必ずしも意味しない。図書館だけではなく、教育・就職支援等を行う機関や、社会文化センター、刑務所、病院といった公的機関における導入も想定されている。
●FALに関するガイド
フランス文化省のウェブサイトから簡易なパンフレットを入手できるほか、県立図書館や各関連機関が詳細なガイドブックを多数発行しており、FALの情報提供や研修を行っている。
その一つが、本や読書に関するフランスの地域圏間連合(Fédération interrégionale du livre et de la lecture:Fill)がフランス文化省などと協力して作成したガイド「図書館やその他の場所におけるFALの空間づくりとその利活用」(Monter et faire vivre un espace Facile à lire en bibliothèque et ailleurs)である。2025年6月に公表された同ガイドは、FALの対象者を支援している、あるいは支援したいと考えている人々に向け、豊富な実例とともに、FALのための空間をつくり、活用するための方法を紹介している。
●FALの空間づくりとその利活用
FALに必要なのは本棚を中心とする専用の読書コーナーと、その利用を促す仲介的なサポートである。コーナーは図書館内や公共施設の待合室などへの設置が想定されており、ガイドはいくつかの原則を提示している。
まず選書について、ジャンルやテーマ、形態の多様さを確保するには50タイトル以上の本が必要とされ、場合によっては視聴覚メディアなども対象となる。FALを専門に扱う出版社の書籍を排架するのもよい。対象年齢や難易度に応じてレベル分けされた書籍は、短文によるわかりやすい物語構成、目を引く挿絵、簡略化された綴りの使用、本文中に登場する表現集の付録といった工夫が施されており、本に親しむ助けとなる。
空間づくりの点では、本棚の周りに椅子を配する、本棚を可動式にして模様替えを容易にするといった工夫が可能である。本棚としての魅力だけでなく、FALの空間としての識別性も重要であり、書籍の面置きや、フランス文化省が配布する公式ロゴマークによる表示などが有効である。
空間を利活用する方法として、本と疎遠になりがちなFALの対象者に向けた仲介的なイベントも推奨されている。朗読会や読書会、作家との交流、文学賞の設立、読者の創作体験などは、人々をより積極的に読書へと導く助けになるとされている。
ガイドは各施設によるFALの実践例を紹介するほか、選書支援や設備の提供など、FALを導入する際に実務的・経済的に協力を仰ぐことのできる機関も紹介している。
●FALの実践例
フランス南部の都市ナルボンヌにあるメディアセンター(l’Espace Média Grand Narbonne)は2018年からFALを実践している。FALコーナーにはクッション・椅子が配置され、書籍は移動式の棚とローテーブルに陳列されている。コレクションの内容は回転率や利用者からのフィードバックをもとに随時調整されており、設置以来高い貸出率を維持している。コーナーが設置されている「言語と文学」エリアには、言語学習教材、青少年から大人向け小説、外国語小説などが排架されており、FALコーナーで読書に親しんだ読者が、自然とその他の書架へと誘導されるつくりになっている。このほか、遊びながら発音を学べるボードゲームの購入や、フォントや文字サイズの変更、余白や行間の調整が可能な電子書籍リーダーの導入などを行っており、多角的な支援を通してFALが実践されている好例といえるだろう。
Ref: “L’offre de lecture « Facile à lire » dans les bibliothèques et les lieux de médiation”. Ministère de la Culture. https://www.culture.gouv.fr/thematiques/livre-et-lecture/pour-les-professionnels-des-bibliotheques/developpement-de-la-lecture/facile-a-lire-en-bibliotheques-et-lieux-de-mediation “Facile à lire et à comprendre (FALC) : une méthode utile”. Ministère de la Culture. https://www.culture.gouv.fr/thematiques/developpement-culturel/culture-et-handicap/ressources-handicap/facile-a-lire-et-a-comprendre-falc-une-methode-utile “Le guide « Monter et faire vivre un espace Facile à lire en bibliothèque et ailleurs »”. Fill. https://fill-livrelecture.org/la-demarche-facile-a-lire-au-service-du-developpement-de-la-lecture/le-guide-monter-et-faire-vivre-un-espace-facile-a-lire-en-bibliotheque-et-ailleurs/ “La démarche Facile à lire, au service du développement de la lecture”. Fill. https://fill-livrelecture.org/la-demarche-facile-a-lire-au-service-du-developpement-de-la-lecture/ Facile à lire. https://facilealire.com BiblioPôle. https://bibliopole.maine-et-loire.fr/sommaire-animer/facile-a-lire Guide pratique à destination des bibliothèques. BiblioPôle. 2020, 36p. https://bibliopole.maine-et-loire.fr/images/Animer/Guide_FAL_-_MAJ_2022_compressed.pdf Le “Facile à lire” en Bretagne. https://facilealirebretagne.wordpress.com/ “L’Espace Média”. Le Grand Narbonne. https://www.legrandnarbonne.com/sortir-et-decouvrir/equipements-culturels/espace-media “Le Facile à lire à Narbonne”. Occitanie Livre & Lecture. https://www.occitanielivre.fr/le-facile-lire-narbonne-0