E2774 – 「災害デジタルアーカイブの最前線」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.497 2025.2.27

 

 E2774

「災害デジタルアーカイブの最前線」<報告>

東京大学大学院情報学環・渡邉英徳(わたなべひでのり)

 

  2025年1月は阪神・淡路大震災から30年、令和6年能登半島地震から1年の節目である。この機に合わせ、1月15日、東京大学大学院情報学環(渡邉英徳研究室)及び株式会社QUICKの主催により、石川県立図書館において「「災害デジタルアーカイブ(DA)の最前線」~能登半島地震から1年・石川県デジタルアーカイブキックオフイベント~」を開催した。本イベントは、石川県が進める令和6年能登半島地震アーカイブ「震災の記憶・復興の記録」(1月29日公開)の公開を記念し、東京大学とNHKの包括連携協定(東京大学創立150周年記念事業)の一環として実施したものである。

●災害デジタルアーカイブの展示

  本イベントは、災害の実相を記録・継承し、未来の備えに生かすデジタルアーカイブの意義や利活用を多角的に検討する場として企画した。エントランスホールでの展示では、令和6年能登半島地震や豪雨災害の記録をフォトグラメトリや3Dガウシアン・スプラッティング、VR・ARなどを駆使して再現し、被災状況を多面的に可視化する取り組みを展示した。NHKと東京大学の協働による熊本地震など過去の災害の3D可視化コンテンツも展示し、これらの技術が復興支援や防災教育、災害対応に資する可能性を示すことができた。石川県副知事の浅野大介氏や能登半島地震を経験した被災者も訪れ、災害の記憶や教訓を次世代に伝える重要性をめぐって活発な対話が行われた。

●シンポジウム

  続くシンポジウムには、地方行政、アカデミア、メディア、民間企業など多分野の専門家9人の登壇者が参加し、ボトムアップ型かつリアルタイムなデジタルアーカイブの現状や事例を紹介した。筆者も登壇し、近年の技術の進化によって、災害デジタルアーカイブをほぼリアルタイムに構築・公開することが可能になっていることについて解説した。ディスカッションでは、記憶伝承や災害対応に対してデジタルアーカイブが持つ可能性、維持・運用の主体が果たすべき責任、トップダウン・ボトムアップなデジタルアーカイブのあり方など、多岐にわたる議論が展開された。来場者はアンケートツールを通じて直接質問・意見を投げかけられる仕組みとなり、隣席の参加者同士のセッションも設けられたことで、会場全体が一体となって議論を深める場となった。株式会社QUICK代表取締役社長の髙見信三氏からは、産学官連携による防災・減災への貢献が強く期待されるとの挨拶が述べられた。

●ワークショップ

  さらに、市民参加型のワークショップも実施した。令和6年能登半島地震のデータを使ってデジタルマップを作成する方法や、写真や映像から高精細な空間形状を再現できる3Dガウシアン・スプラッティングを用いた被災地のスキャン技術、遠隔地の状況をスマートフォンでAR表示するアプリの開発などが取り上げられ、参加者は自らの端末を用いて実践的なスキルを習得した。こうした取り組みは災害時の即時対応や情報発信を促進し、自治体や市民が協力して迅速な被害把握と復興支援を行う基盤づくりにつながると期待される。

  本イベントは、阪神・淡路大震災から30年、能登半島地震から1年という歴史的節目に開催され、過去の教訓を未来に生かす取り組みを強化する契機となった。最新技術を活用したデジタルアーカイブは、被災地の記録を多元的かつリアルタイムに共有し、防災教育の充実や地域コミュニティの連携強化にも大きく寄与し得る。今後も同様のイベントや研究の継続によって、災害の記憶を社会全体で継承し、次に起きる災害に備える仕組みをより一層発展させることが期待される。

  本稿は東京大学ウェブサイトのイベント報告記事を元に改稿を施したものであるので、そちらも参照されたい。

Ref:
災害デジタルアーカイブの最前線.
https://da2025.jp/
“開催報告:「災害デジタルアーカイブの最前線」~能登半島地震から1年・石川県デジタルアーカイブキックオフイベント~ ”. 東京大学. 2025-01-20.
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0115_00077.html
令和6年能登半島地震アーカイブ「震災の記憶・復興の記録」.
https://noto-archive.pref.ishikawa.lg.jp/
渡邉英徳. 能登半島地震の(リアルタイム)デジタルアーカイブ. デジタルアーカイブ学会誌. 2024, 8(4), p. 152-156.
https://doi.org/10.24506/jsda.8.4_152