E2335 – カナダ国立図書館・文書館の2019-2020年活動報告

カレントアウェアネス-E

No.404 2020.12.10

 

 E2335

カナダ国立図書館・文書館の2019-2020年活動報告

総務部管理課・福岡雅史(ふくおかまさふみ)

 

●はじめに

   2020年9月,カナダ国立図書館・文書館(LAC)は2019年から2020年の年報を公開した。この年報では同年に行われた活動や将来に向けた他機関との連携,体制について触れられている。文化財の将来的な保存活用計画を考える上で参考となりうる事例として本稿では「新しい保存センターの建設」,「Co-LabおよびDigiLab」,「先住民の文化遺産の保存活動」の3つの活動を抜粋して紹介する。

●新しい保存センターの建設

   2019年,LACはケベック州ガティノー市にある既存の保存センターの隣に新しい保存センターの建設を開始した。これはLACが以前発表した3年計画(2016-2019)で,文書記録保存とアクセス提供のための最先端施設の建設を目的とした「長期インフラ戦略」の一つとして挙げられていたものである。この新しい保存センターの建設と運用は,既存の保存センターの運用と合わせて公民連携によって行われている。新しい保存センターの特徴は2点ある。1つは,自動書庫等を備えた最先端かつ世界最大級の保存施設であることだ。2つ目の特徴は,建設,運用の過程において環境に対し最大限の配慮を試みていることである。例えば,建築過程における二酸化炭素排出量の最小化,地熱発電や,99.5%は「クリーン」であると考えられているケベックの電力網からの電力供給等,温室効果ガスの排出をゼロに近づけるような施策が行われている。また,新しい保存センターは南北アメリカ大陸で初の文書保存専用のネットゼロカーボン施設となる予定である。ネットゼロカーボンはカナダの「緑化政府戦略」で挙げられた要件の1つであり,年間の温室効果ガスの排出量を実質ゼロに近づけることを意味する。

●Co-LabおよびDigiLab

   Co-Labは2018年に公開されたLACのデジタル記録のテキスト化,翻訳,タグ付け,注釈を行うクラウドソーシングツールである。このツールを用いることで,LACのコレクションのデジタルコンテンツを増加させ,カナダ国民にコレクションへ関わる機会を提供することや,利用者がより簡単にコレクションにアクセスできるようになることが期待されている。Co-Labでは“Challenges”と呼ばれるテーマ(個人の日記や手紙等)ごとにまとめられたデジタル資料群,または自ら検索システムで探した編集可能なデジタル資料に対し,誰でもデジタル資料の注釈等の編集作業を行うことができる。また,誤記を発見した場合は「レビューが必要」とマークすることで他の人が再度確認できる。Co-Labを利用することで専門家でなくても誰もがレビュアーにも編集者にもなることができる。

   一方DigiLabはLACのコレクションのデジタル化を促進するためのサービスを行う施設である。このサービスではコレクションをデジタル化するために必要な高性能のスキャナー,コンピューター,ワークスペースに加えて,資料の取扱いとデジタル化のための研修教材,メタデータと注釈作成のためのテンプレート等が提供される。利用申請者はこれらを使って効率よく自ら必要な資料のデジタル化作業を行い,その後,デジタル化された資料はLACに寄贈される。DigiLabは2017年にオタワで立ち上げられ,その後,LACのサービスポイントがあるバンクーバーとウィニペグでも同じサービスを提供することが決められた。両サービスポイントにも貴重な資料が数多く所蔵されており,DigiLabの活用が期待される。

●先住民の文化遺産の保存活動

   LACは2019年にカナダの真実と和解委員会(TRC)の呼びかけによりカナダの先住民の権利を認知し,先住民に関するコレクションを利用しやすくすることを目的とした28の行動からなる計画“Indigenous Heritage Action Plan”を策定した。この行動計画はLACが先住民の文化遺産を保存していく上で必要な行動について示されている。全体を通して,LACとLACの職員は先住民への理解を深め,先住民のコミュニティや関係団体と積極的かつ敬意を持って交流しなければならないと述べられている。LACが先住民の遺産を歴史的,文化的に適切に理解,保存,公開するには先住民のコミュニティとの深い関係が不可欠なためである。また,先住民の記録の管理においても先住民の慣例に従った方法で保管や公開に細心の注意を払うとしている。先住民の文化遺産のプロモーションでは,先住民のコレクションのオンラインでの広報や,先住民主導の組織によるアーカイブと図書館のプロジェクトへの財政的支援,また展示会の開催等を通して,先住民の文化遺産についての認知向上を目指している。

●おわりに

   本稿では,2019年から2020年のLACの活動から3つの内容を紹介した。「新しい保存センターの建設」では,今後の建築における環境対策の必要性が示唆された。日本でも消費エネルギー収支ゼロを目標とした“Zero Energy Building(ZEB)”や“Zero Energy House(ZEH)”のような建物が推進されており,図書館も例外ではない。また,LACは限られた人だけではなく,より多くの人がLACのコレクションに関する活動に参加してもらえるように考え,計画策定や取組を実施していると感じられた。今回紹介したどの活動もまだ発展途上や途中のものである。これらの活動がどのように展開していくのか,期待したい。

Ref:
Annual Report 2019–2020. LAC. 2020, 54p.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/annual-reports/annual-report-2019-2020/Documents/Rapport Annuel 2019-20_EN_WEB.pdf
“Preservation”. LAC.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/preservation/Pages/preservation.aspx
“Library and Archives Canada’s New Preservation Facility”. LAC.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/our-infrastructure-projects/new-preservation-facility/Pages/new-preservation-facility.aspx
Library and Archives Canada’s New Preservation Facility.
https://www.preservationgatineau.com/
“Co-Lab”. LAC.
https://co-lab.bac-lac.gc.ca/eng
“Introducing Co-Lab: your tool to collaborate on historical records”. LAC Blog. 2018-04-17.
https://thediscoverblog.com/2018/04/17/introducing-co-lab-your-tool-to-collaborate-on-historical-records/
“DigiLab”. LAC.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/services-public/Pages/digilab.aspx
“Indigenous Heritage Action Plan”. LAC. 2019.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/discover/aboriginal-heritage/initiatives/Pages/actionplan.aspx
“Indigenous heritage”. LAC.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/discover/aboriginal-heritage/Pages/introduction.aspx