E2327 – カナダの冊子体資料共同管理に関するプロジェクト最終報告書

カレントアウェアネス-E

No.403 2020.11.26

 

 E2327

カナダの冊子体資料共同管理に関するプロジェクト最終報告書

名古屋大学附属図書館・村西明日香(むらにしあすか)

 

   2020年9月,カナダ研究図書館協会(CARL),カナダ国立図書館・文書館(LAC),およびシェアードプリントを実施している国内のコンソーシアムからのメンバーで構成されるCanadian Collective Print Strategy Working Group(CCPSWG)は,同国の冊子体資料の共同管理に関するプロジェクトの最終報告書“Final Report of the Canadian Collective Print Strategy Working Group”を公表した。本稿では,この報告書の内容について概説する。

   電子資料の普及やキャンパス・施設のスペース圧迫により,同国のみならず世界中の図書館で大規模な資料の除籍が行われる中,冊子体資料を複数機関で共同管理するシェアードプリントの取組(CA1819参照)は,学術的・文化的記録を確実に保存するために不可欠なものである。CCPSWGは,国内外のシェアードプリントプログラムの動向調査,冊子体の連邦政府刊行物を対象とした試験的な重複調査等を実施し,最終報告書にて,同国における全国的なシェアードプリントネットワークの確立を成功させるため13の提言を行っている。以下,提言を5つに分類して紹介する。

●全国的なシェアードプリントネットワークの形成

   既存のシェアードプリントプログラムの活動を調整し,同取組に関心のある図書館が地域コンソーシアムを通じて参加可能となる,全国的なシェアードプリントネットワークを形成する。

   同国には,共同保存書庫を用いた集中保存を行う集中型(例.Tri-Universities Group),参加機関内で保存責任を配分し分散保存する分散型(例.太平洋・プレーリー大学図書館協議会(COPPUL))の両モデルを含むシェアードプリントプログラムのほか,法定納本制度により網羅的な保存を行う機関(例.LAC)がある。全国的なネットワーク形成にあたっては,これらを組み合わせた保存と利用の枠組を構築することを目指し,3段階から成るアプローチを行う。

   第1段階では,既存のシェアードプリント協定を分析し,合理化するとともに,既に保存が行われている資料の範囲を明らかにして,今後保存対象を拡大する際の優先順位を検討する。第2段階では,カナダの先住民族のコンテンツの保存に関する内容を含む2015年の真実と和解委員会(TRC)の勧告に同ネットワークの枠組が対応しているかどうかを確認するとともに,他の遺産コンテンツデジタル化プログラムと協調する。第3段階では,保存書庫を持たない館や非参加館が参加できるようにし,枠組を強化する。また,連邦政府刊行物に限定せず,国内外で刊行されたカナダに関する刊行物全体(Canadiana)へと保存対象資料を拡大する。

●同ネットワークの運営

   学術図書館コンソーシアム,既存のシェアードプリントプログラム,LAC,カナダ都市図書館協議会(CULC)等の館長や専務理事といった代表者で構成される全国規模の運営委員会によって運営する。この運営委員会は,2021年初頭に設置する。また,コレクション管理,メタデータ,所蔵資料の公開,利用に関する最新の専門知識を持った全国の参加館からの代表者8人から10人で構成される,運営ワーキンググループも組織する。

   加えて,運営委員会に助言を行う非常勤のネットワークコーディネーターを,2021年4月から雇用する。業務内容は,ネットワークの協定や予算案の作成,上述の重複調査のフォローアップ,参加館との定期的なコミュニケーション,国内外のシェアードプリントプログラムや大規模デジタル化の取組との連携等である。

   ネットワークの管理はシェアードプリントの経験が最もあるCOPPULが担当し,そのための費用は同ネットワークが支払う。COPPULは運営委員会と協議の上,ネットワークコーディネーターやインターンの雇用管理,ネットワークの財務やウェブサイトの管理を行う。

●財政的な持続可能性

   ネットワークの立ち上げと安定的な運営,さらなる資金確保の努力を行うため,最初の3年間は継続して参加してもらう。最初の3年間の運営費は参加機関による費用分担モデルを取る。

   1年目(2021年4月開始)の予算は11万5,000カナダドルで,2年目(2022年4月開始)と3年目(2023年4月開始)は3%ずつ増加する。この予算はネットワークコーディネーターの給与,旅費,事務費等に充てられる。

●保存責任の公開

   共同保存する資料の保存責任を各館のOPAC等で公開する。保存責任には,どのプログラムにおいて,どの機関が,どこで,いつまで保存しているかといった情報のほか,現物確認の実施有無,実施した場合のレベル(巻・号・頁),実施した結果判明した問題(欠号,破損等)といった情報が含まれる。

   また,必要に応じて,WorldCatの所蔵データや,研究図書館センター(CRL)のシェアードプリントイニシアティブによる総合目録「PAPRレジストリ」にも保存責任を登録する。将来に向けては,より完全で標準化されたメタデータセットを開発する。このメタデータは同国の図書館が運用する英仏両言語の図書館管理環境に対応していることが必要で,これは他の国際的な取組や多言語対応につながっていく可能性がある。

   さらにこれらの動きについて,参加館が最新の情報を入手したり,新たな開発を支援したりできるよう,OCLC,CRL,図書を対象としたシェアードプリントプログラムの支援組織であるPartnership for Shared Book Collections等と密に連携する。

●プログラムの評価とレビュー

   プログラムの評価とレビューを3年目に実施するために,ネットワーク構築当初からその計画を立てる。具体的には,プログラムの目標や目的が参加機関のそれに沿っているか,実施した作業とそれが参加機関にもたらした影響,次の段階への提言等について評価・検討する。

   カナダのこの取組は,多様なモデルを組み合わせ,生かしながら,全国的なシェアードプリントネットワークを形成しようとするところに特徴があり,今後の検討と報告が待たれる。

Ref:
“New CARL-LAC Report Proposes National Shared Print Network for Canada”. CARL. 2020-09-15.
https://www.carl-abrc.ca/news/new-carl-lac-report-proposes-national-shared-print-network-for-canada/
CCPSWG. Final Report of the Canadian Collective Print Strategy Working Group. 2020, 21p.
https://www.carl-abrc.ca/wp-content/uploads/2020/09/CCPSWG_final_report_EN.pdf
“Shared print collections in Canada”. LAC.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/services/shared-print-collections/Pages/shared-print-collections.aspx
“Detailed metadata guidelines”. OCLC. 2020-09-15.
https://help.oclc.org/Metadata_Services/Shared_Print/Detailed_metadata_guidelines
村西明日香. 北米における冊子体資料の共同管理の動向. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1819, p. 26-31.
https://doi.org/10.11501/8484055