E2243 - 作り手と読者の交流を促すフリーペーパー・オブ・ザ・イヤー

カレントアウェアネス-E

No.388 2020.03.26

 

 E2243

作り手と読者の交流を促すフリーペーパー・オブ・ザ・イヤー

奈良県立図書情報館・乾聰一郎(いぬいそういちろう)

 

 フリーペーパー・オブ・ザ・イヤーは,「文化のセーフティネットを創る」をコンセプトに,大阪を中心に活動する一般社団法人ワオンプロジェクトを主宰している田中冬一郎氏の発案で,2017年から始められたものであり,2019年度に第3回目が開催された。

 フリーペーパー・オブ・ザ・イヤーは,作り手も読者も,「誰でも」「無料」で参加できることをコンセプトに,作り手からのエントリーと,ウェブでの紹介と投票,展示会場での展示と投票によって構成される。最終の展示会場(もりのみやキューズモール(大阪市)にあるまちライブラリー)の展示の最終日に,最も多くの票を得たフリーペーパーに贈られるフリーペーパー・オブ・ザ・イヤー賞ほか各賞の発表や受賞作品の紹介および作り手と読者との交流などが行われる。2019年度は12月22日に結果発表が行われた。展示会場も,当初大阪が中心ではあったが,関西以外でも東京やその他の地域などで展示され,また図書館など公共施設でも展示されるなど,回を重ねるごとに広がりを見せるようになっている。

 これまでも田中氏は,自身が経営する店舗(大阪梅田にある蜂蜜とフリーペーパーの店「はっち」)やソーシャルメディアを使って,フリーペーパーの紹介,応援を行ってきた。そのような中,一方的な紹介・提供ではなく,「発行媒体を受け取ってくれた読者の声を何かしらの形でフィードバックし,作り手と読者が双方向で,まるで友人にお手紙を返すかのように,可視化できないか?」という想いと,「発行者の方々の認知度向上とローカルメディア全体を応援するために,有志による人気投票の形で表彰するのはどうだろうか?」と考えたことが発案の背景にあるという。

 奈良県立図書情報館では1回目からエントリーされたフリーペーパーを展示するとともに投票スペースを設け,フリーペーパー・オブ・ザ・イヤーに参加,協力してきた。会場では,エントリーされたフリーペーパーの展示にあわせて,「想いを届けるローカルメディア」をテーマに,地域や個人・趣味仲間などの小さな共同体が発行しているさまざまな情報発信媒体であるローカルメディアを中心に,それに関連する資料を紹介するほか,奈良県で発行されている当館所蔵のフリーペーパーを展示している。

 フリーペーパーは,その内容やかたち,造本もさまざまである。例えば,『BRoTHER TIME』というフリーペーパーは,小,中学校に通う三人の兄弟が,自分たちの住むまち(大阪市玉造周辺)のマップを作り,飲食店などお店をマッピングしながら,その店に一軒ずつインタビューに出向き,それらを通してまちの姿を紹介している手作りの地域情報新聞とでもいうものである。兄弟が分担しながら,すべて手書きで,印刷もコンビニのコピー機という本当に手作りのフリーペーパーである。製本されていなくても,その内容はまちのレアな情報にもおよんでおり,地元の人にとっても発見することも多く,それゆえ,地元ではない人にとっても,興味をそそられるものになっている。フリーペーパー・オブ・ザ・イヤーでの受賞歴もあり毎回注目されている常連のフリーペーパーである。ちなみに,2019年度のフリーペーパー・オブ・ザ・イヤー賞は,『豊岡在住 vol.1 履きもん』であった。兵庫県豊岡市の移住者によるウェブサイト「飛んでるローカル豊岡」編集部が,豊岡市の住民が日常履いている「履きもん」にフォーカスした視点で地域の魅力を紹介したフリーペーパーである。

 地域情報は,その最大公約数的な編集によって整理され,画一化される傾向がある。そのようななかにあって,フリーペーパーなどのローカルメディアは,本というある意味完成されたメディアの一歩手前でその裾野を歩き,紡がれる生の情報ともいうべきものであろう。そして当たり前に消えてしまうローカルな情報(人であれ,ものであれ)をつなぎ止める役目を果たしていると思われる。自らの立ち位置を確認しまた再認識するという意味で,凡百の観光案内などとは一線を画すものであり,多様な「知る」のアクセスポイントとしての図書館がコミットすることにも大きな意義があるのではないかと思われる。

Ref:
https://freepaper-of-the-year.jimdofree.com/
https://waon0317.ti-da.net/
https://www.facebook.com/waon2007
https://www.library.pref.nara.jp/gallery/3125
https://www.facebook.com/pages/category/Community/Brother-TIME-462633140511511/
https://freepaper-of-the-year.jimdofree.com/2019年最終結果/