カレントアウェアネス-E

No.338 2017.12.07

 

 E1975

尾鷲市立図書館の寿文庫活動

 

    地域の風習である厄年の「まき銭」を，尾鷲市立図書館（三重県）の図書購入費として寄付してもらう「寿文庫活動」が2018年も1月5日から3月12日まで行われる。1966年，「まき銭の廃止や厄祝を簡素化し，その経費で市立図書館の図書購入支援をしよう」と尾鷲市に本店がある紀北信用金庫の元理事長・故土井周平氏が提唱し「寿文庫運営委員会」が発足したことに始まる活動である。

●背景

   尾鷲市では，厄年の人が厄払いに寺社の境内で硬貨を投げる「まき銭」という風習があった。これはお金を撒いたり使ったりすることで，厄も落ちるという考えによるものである。しかし，1960年代はじめ頃より，厄のまき銭を拾った子どもたちがかなりの金額を小遣いとしていることが，青少年の健全育成の観点から批判されはじめた。また，経済成長と共に厄払いの宴会なども派手になってきたことに対して，厄払いの見直しを求める声が市民より上がっていた。本活動の開始にはこうした背景があった。
 

●活動内容

   寿文庫活動による募金は，毎年1月5日から3月12日の厄参りが行われる期間に実施され，期間中，当館にて寄付を受け付けている。また，尾鷲神社と市内5つの寺（金剛寺・妙長寺・常聲寺・祐専寺・光圓寺）に協力箱を設置し，厄参りの人たちに募金を呼びかけている。

   これらの活動によって得た寄付金は当館の図書購入費に充てられ，通常の年間予算では購入が難しい高額本や利用者からのリクエスト本などを購入している。

●寿文庫運営委員会

   寿文庫運営委員会の事務局は当館に置かれている。現在の委員は，自治連合会や老人クラブなど地域団体の代表をはじめ，当館の利用者など17人で構成されている。委員の任期は2年間であるが，再任は可能で，長年この活動に携わっている委員も多い。また委員のうちの数人はその年の厄年該当者が就任し，同級生などへの寄付の呼びかけなどを担当している。

   主な活動内容は年数回の会議参加をはじめ，宣伝ポスターの掲示や，呼びかけによる啓発活動，寺社への協力要請，などである。委員の活動はボランティアで行われているが，会議で毎年いろいろなアイデアが出される。例えば書店・商店・銀行などへのポスター掲示の依頼や，市内の中学校・高校の美術部によるポスター展の提案など，寿文庫を盛り上げ，周知するための方法を検討・実施している。これらのことがこの活動が現在まで続く要因の一つとなっている。2016年には，長年の活動が認められ，市長表彰を受けた。

●近年の活動

   2012・2013年に中央公民館で実施された中学校・高校美術部によるポスター展は，中高生への啓発と目新しいポスターの市内掲示によって，寿文庫活動の宣伝に効果的であった。その流れを受け，2015年には，事業開始から50周年を迎えるに当たり，ポスターを一新することにして，2014年にポスターコンクールを行った。ポスターコンクールには122点の応募があり，最優秀賞を受賞した作品が新ポスターに決定し，寿文庫の活動期間中，市内の掲示板などに貼り出している。また，キャッチフレーズ「厄年のまき銭は寿文庫へ！」についても，少子高齢化に伴い，厄年該当者が年々減少し，寄付金も減る傾向であったことから，50周年を機に募金の対象を，厄年該当者ばかりでなく，喜寿や米寿といった「祝い年」の人たちへも広げてはどうかという意見が出た。そのため，新ポスターに掲載するキャッチフレーズは「厄落とし，長寿のお祝いは寿文庫へ！」と変更し，「祝い年」の方にも寄付を呼びかけるようにした。このポスター効果と寿文庫運営委員の広報活動により，「祝い年」の人たちからの寄付も順調に増加した。

   寿文庫活動へは，今までの52年間で，延べ6,090人から2,262万円の寄付があった。これらの寄付金で購入した図書は，1万2,000冊にのぼり，その図書には「Yマーク」（「厄」（YAKU））のラベルを貼るとともに，「第○回寿文庫」の蔵書印を押し，寿文庫活動による購入であることがわかるようにしている。また，募金活動期間中には，寿文庫活動で購入した図書の特設コーナーを設け，広く市民に利用を呼びかけている。

   市民の善意によって支えられているこの活動は，当館の大きな特色となっている。

尾鷲市立図書館・矢賀敏代

Ref:
http://www.city.owase.lg.jp/contents_detail.php?frmId=9158
特集, 図書館における資金調達（ファンドレイジング）: 地域の風習と寄付を組み合わせる 尾鷲市立図書館（三重県尾鷲市）. LRG. 2013, (3), p. 86-87.