E1931 – 韓国の国立図書館におけるデジタル化資料の送信サービス

カレントアウェアネス-E

No.328 2017.07.06

 

 E1931

韓国の国立図書館におけるデジタル化資料の送信サービス

 

   韓国では,図書館が,自館でデジタル化した資料の他館への送信を可能とする規定が著作権法に設けられ,この規定に基づき,韓国の国立中央図書館(NLK)と国会図書館(NAL)が他の図書館等に対して送信サービスを行っている。韓国の場合,すべての図書館等に対して送信することを認めていたり,海外の機関が送信先に含まれていたり,資料のデジタル化や他の図書館等への送信にあたり補償金の支払いが必要であったりといった,日本における国立国会図書館(NDL)によるデジタル化資料送信サービスとは異なる特徴がみられる。

   そこで本稿では,韓国著作権法における関連規定の内容を紹介した上で,NLKとNALで行われているデジタル化資料の送信サービスの枠組みについて紹介する。

●韓国の著作権法におけるデジタル化資料の送信に関する規定

   韓国の著作権法では,著作権法施行令第12条において定める図書館等に対して,1.保存のため(第31条第1項第2号)および2.館内閲覧のため(同条第2項)のほか,3.コンピュータを利用して利用者が他の図書館等の中で閲覧できるよう,所蔵資料を複製・伝送するため(同条第3項)であれば,図書館資料をデジタル化することを可能とする規定を置いている。「伝送」とは,「公衆送信のうち,公衆の構成員が個別に選択した時間及び場所からアクセスできるよう著作物等を利用に供することをいい,それに伴って行われる送信を含む」(第2条第10号)とあることから,図書館等でのデジタル化資料の送信は,この規定によって可能となっている。

   ただし,その全部または一部が販売用として発行された図書等であって,その発行日から5年が経過しないものや,すでに電子書籍として販売されているものは対象外とすること(第31条第4項,第5項),文化体育観光部長官が定め,告示する基準による補償金を,当該著作権者に支払うこと(第31条第5項),さらに,大統領令で定める複製防止措置(不法利用防止のために必要な複製防止,図書館利用者以外のアクセス制限,施設外利用の確認および販売用図書の利用防止が可能な技術的措置,図書館職員に対する教育,著作権保護に関する警告文の表示,補償金算定のための装置の設置)を講じなければならないこと(同条第7項)といった,日本の著作権法にはみられない様々な制約がみられる。なお,補償金は,送信先の図書館が機関として納付する場合と,利用者が納付する場合とがある。2017年7月現在,補償金の額は,例えば図書の場合,伝送時は1ファイルあたり25ウォン(2017年7月の報告省令レート換算で約2.5円)(非売品は無料),プリントアウト時は1ページ6ウォン(同約0.6円)(非売品は3ウォン(同約0.3円))となっている(文化体育観光部告示第2016-20号)。この補償金の受取は,文化体育観光部長官が指定する団体を通じて行うこととされており(同条第6項,第25条第5項),社団法人韓国複製伝送著作権協会のみが指定されている(文化体育観光部告示第2015-26号)。なお,分配公告をした日から3年が経過した未分配の補償金については,文化体育観光部長官の承認を得て,公益目的のために使用することができると規定されている(同条第8項)。

●NLKのデジタル化資料の送信

   NLKは,文化体育観光部に属する国立の図書館であり,蔵書数は1,000万点を超える。学術的価値がある資料についてデジタル化を進めており,2016年12月現在,古書,単行本,逐次刊行物,朝鮮総督府図書館旧蔵書など約63万冊がデジタル化されている。著作権の保護期間が満了しているものや処理が済んでいるものはインターネット上で原文の画像データの閲覧が可能である。

   デジタル化資料の他の図書館等への送信については,上記の著作権法第31条第3項に基づいて実施されている。同サービスのウェブページから,対象館は,韓国内の公共図書館,大学図書館,専門図書館,学校図書館等のほか,海外の機関も36機関確認できる。日本では韓国文化院図書映像資料室,日本宣教訓練院で利用できると紹介されている。

   NLKのデジタル化資料の送信を受けるには,まず韓国複製伝送著作権協会と契約を結ぶ必要がある。その後NLKに図書館符号付与の申請を行い,NLKの図書館補償金管理システムのウェブサイトから図書館情報とIPアドレス登録を行ったのち,図書館補償金課金ソフトをインストールすると,著作権保護期間中の原文の画像データの閲覧およびプリントアウトが可能となる。補償金の課金は,コンテンツの種類に応じて,プリントアウト時,または閲覧時・プリントアウト時の両方に対して行われる。なお,補償金については,デジタル化資料の利用促進のため,2019年8月までNLKが全額負担することとなっている。

●NALのデジタル化資料の送信

    NALは国会に属する図書館で,蔵書数は約590万点である。所蔵資料のデジタル化は,立法活動支援,国民サービスの観点から実施され,2016年9月現在,古書のほか,戦前の雑誌,学位論文,学術論文,政府刊行物(白書類)など約400万件,約1億9,000万ページがデジタル化され,著作権の保護期間満了のもの及び著作権処理済のものは,インターネット上で原文データが閲覧可能である。

   NALのデジタル化資料の送信は,まず韓国複製伝送著作権協会と契約したのち,NALと学術協定を結ぶことで受けられる。その際,学術情報流通網の構築及び運営,電子図書館事業における相互協力のためにNALが設立した韓国学術情報協議会の会員となるほか,刊行資料の交換,刊行資料についての利用許諾への相互協力などが求められる。協定の締結にあたっては,図書館(資料室)としての施設と送信を受けるための指定されたパソコンが備えられていることが必要である。同サービスのウェブページから,現在,韓国内の公共図書館,大学図書館,専門図書館などのほか,海外の50機関とも協定を結んでいることが確認できる。日本では韓国文化院図書映像資料室,立命館大学図書館,名桜大学図書館が挙げられている。

関西館アジア情報課・田中福太郎

Ref:
http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin11-1-1.php
http://www.law.go.kr/법령/저작권법
http://www.law.go.kr/법령/저작권법시행령
https://www.korra.kr/jsp/comm/NormalCtrl.jsp?L=2&M=2&S=4
http://www.korealaw.go.kr/admRulInfoP.do?admRulSeq=2100000059276
http://www.korealaw.go.kr/admRulInfoP.do?admRulSeq=2100000024421
http://www.nl.go.kr/nl/intro/service/convention_info.jsp
http://www.nl.go.kr/nl/intro/service/convention_lib.jsp
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/cooperation/pdf/2015kankoku_theme1.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2015/10/09.html
http://www.nanet.go.kr/comnet/academeet/academPubView.do
http://www.nanet.go.kr/comnet/academeet/organInfoView.do