カレントアウェアネス-E
No.273 2014.12.24
E1638
点字利用と読書に関するアンケート調査の結果について
日本点字図書館の点字図書の利用タイトル数は,10年間で約3割減少している。また,点字図書館関係者からも,視覚障害者の「点字離れ」,「点字読者の減少」の声をよく聞く。本当に点字を読む人が少なくなってしまったのであろうか?点字利用者は点字図書をどのように利用しているのであろうか?このような疑問を少しでも明らかにするために,日本点字図書館では,視覚障害者の点字図書の利用の実態,読書意識についての調査を行なった。
調査期間は2013年10月5日~10月22日。当館で点字図書の貸出実績のある利用者600人を選び点字のアンケート用紙を送付した。回答者は231人。9割が点字図書を読むことができ,50代以上が6割,障害程度等級1,2級が100%であった。
設問は全部で20問。もっとも重点を置いた設問が,点字図書,録音図書を両方利用する人に七つの場面を挙げ,点字図書,録音図書が両方ある場合どちらを利用するかを聞いたものである。七つの場面とは,(1)何度も読み返したいもの,(2)ニュース性を求めるもの,(3)情報の正確性を求めるもの,(4)学習のためのもの,(5)調べ物のためのもの,(6)趣味・娯楽のためのもの(小説,エッセイなどの文学),(7)趣味・娯楽のためのもの(文学を除く)である。
これらのうち,点字図書を利用するという回答が多かったものは,(1)何度も読み返したいもの(82%),(3)情報の正確性を求めるもの(77%),(4)学習のためのもの(86%),(5)調べ物のためのもの(72%)の四つである。回答者の約7~8割が点字図書を選ぶと回答している。一方録音図書を利用するという回答が多かったものは,(2)ニュース性を求めるもの(68%),(6)趣味・娯楽のためのもの(小説,エッセイなどの文学)(62%),(7)趣味・娯楽のためのもの(文学を除く)(53%)の三つである。それぞれ回答者の5~7割が録音図書を選んでいる(カッコ内のパーセンテージは,それぞれの回答者の割合を示す)。
点字図書を選んだ理由として,「点字の方が探しやすい」,「言葉を正確に読み取れる」,「点字の方が頭に入りやすい」と言った理由を挙げている。例えば学習や調べ物ものなどの正確性を求められるもの,しっかりと覚えたい場合には点字図書を利用している。一方,録音図書は「速報性のあるものは録音の方が早いから」,「早聞きができるので情報量の多いものを短時間で聞くことができる」,「聞き流しで十分なので」といった理由を挙げている。週刊誌,月刊誌などの雑誌のように,雑学的,娯楽的な情報は,広く浅い情報であり,情報量も多い。じっくり座って聞いてばかりはいられないので,通勤中や家事をしながらでも聞くことができ,しかも早聞きができる録音図書が好まれている。
また,「趣味・娯楽で文学を読む」場合,いわゆる読書鑑賞では,回答者の6割は録音図書を利用している。調査前は,文学のようにじっくりと読む分野は,点字図書の利用が多いと予想していたが,結果は録音図書の方が多かった。「いつでもどこでも鑑賞できること」,「何かをしながら聞くことができる」,「早聞きができる」という利便性の良さが理由の上位に挙げられている。
これらの結果から,利用者は,場面に応じて点字図書,録音図書をうまく使い分けていることがわかる。録音図書は,たくさんの情報を短時間で入手するのに適しており,雑誌などには最適である。また,デイジー化により検索性も良くなり,調べものを早く探すことができるようになったため,小さな辞典,取扱説明書,レシピなどにも用途が広がっている。一方,正確に確認する必要のあるもの,何度も読み返すようなものは,点字図書を利用している。さらに,地図や図形のような形を表すものは点図や触地図でないと理解できない。また,母親が絵本を子供に読み聞かせする場合には,絵本に点字を付けた点字付きの絵本がないと子供と一緒に楽しめない。このように,点字図書,録音図書には,それぞれの長所がある。
点字図書の貸出量が減少傾向ではあるが,それは,単純に読者が減ったというものではなく,録音図書の利便性が向上し,利用者がうまく使い分けているという状況がある。
また,今回の調査で点字図書の重要性が改めて理解できた。今後,点字図書,録音図書の特性をうまく活かした情報の提供方法が求められている。
社会福祉法人日本点字図書館・杉山雅章
Ref:
http://www.nittento.or.jp/images/pdf/information/tenji_enquete.pdf