E1582 – 英国政府,孤児著作物利用促進のための制度設計の方針を公表

カレントアウェアネス-E

No.262 2014.07.10

 

 E1582

英国政府,孤児著作物利用促進のための制度設計の方針を公表

 

 英国政府は,2006年に公表した『ガワーズ報告書』の中で,孤児著作物の利用の促進の必要性を明らかにして以来,そのための制度設計のあり方について検討してきた。2011年5月に公表した『ハーグリーヴス報告書』において,孤児著作物問題の解決のための提言があったのを受け,英国政府は同年8月にこの提言への取組みの原案を公表して意見を募集し,471の意見を集めている。さらに,これと並行して,欧州委員会(EC)において,2012年に孤児著作物指令(CA1771参照)が採択され,2014年10月29日までに英国内での適用が求められている。

 このため,英国政府は,日本を含む5か国の制度と英国政府の取組みの原案との比較調査を行った。その上で,営利・非営利双方の目的での利用に対応する拡大集中許諾制度を含むライセンスの枠組みを導入することと,ある種の文化機関による非営利目的での孤児著作物のデジタル化を許容する枠組みを,孤児著作物指令の英国内での適用のために導入することを検討している。その制度設計のため,著作権者団体と文化施設関係者等によるワーキング・グループによる検討が行われ,英国政府は,2014年1月10日に,その結果を踏まえた規則案を公表し,また,これについての意見募集を2014年2月28日までの期限で実施した。

 英国政府は,この意見募集の結果出された意見を踏まえ,2014年5月30日,報告書「孤児著作物に関する専門的コンサルテーションへの政府回答」を公表し,政府としての制度設計の方針を示した。

 この報告書は,上述の経過を示した上で,(1)英国でのみ適用されることを想定するライセンスの枠組み案と,(2)EU指令を適用する場合の枠組み案を示し,2014年1月10日の意見募集の際に提示した,これらの枠組みを適用する際の27の質問について,質問ごとに,意見の要約と,これらに対する英国政府の方針を示している。ここでは,そのうちのいくつかをピックアップして紹介する。

質問1:集中管理団体は,それぞれの分野における孤児著作物のライセンス手続を改善することができるか?
 この質問については,(1)認可機関により運営される集中型データベースが構築されるなら,どの集中管理団体がライセンスを発行するかが明確になる,(2)集中管理団体のこれまでの知識や経験に基づく料金や許諾条件に関する助言が得られる,(3)入念な調査に関する援助が得られる,という意見があった。これを受け,政府は,認可手続についての想定はないものの,集中管理団体の活用は様々なメリットがあるため,孤児著作物のライセンス手続についても役割を果たすことになる旨の方針を示している。

質問2:孤児著作物のライセンスは移転可能とすべきか?そうだとすれば,どのような条件が適切か?
 この質問については,移転を認めるべきでないとする著作権者団体と,団体の吸収合併や第三者機関での商業利用を想定して移転を認めるべきとする潜在的利用者(博物館,美術館,図書館等)とで意見が分かれた。これを受け,政府は,認可機関による認可を条件に移転を認めるという方針を示している。

質問3:大量の非営利目的の利用については,年間ライセンスやこれに類するライセンスを認めることについてどう思うか?
 この質問についても,潜在的利用者と著作権者団体との間で意見が二分した。これを受け,政府は,入念な調査を義務づけた上での年間ライセンスか包括許諾契約の導入の方針を示している。

質問4:著作権使用料の請求期間を限定すべきか?そうだとすれば,どれくらいの期間とすべきか?
 この質問についても,6年から7年間程度とする潜在的利用者の意見と,長期間の設定が望ましいとする著作権者団体との意見に二分された。これを受け,政府は,8年間を義務的支払い期間とし,それ以降も任意により支払うことができることとする方針を示している。

質問6:請求がなかった料金は何に使われるべきか?またその理由は?
 この質問についても,社会・文化・教育の目的に活用すべきとの著作権者団体の意見と,原資料やデジタル化資料の維持管理コストに充てる目的で支払者に還元すべきとの潜在的利用者の意見に二分された。政府は,孤児著作物のライセンスの枠組みを維持するための経費にまず充当し,剰余分については,省大臣が用途を決定するとの方針を示している。

 なお,英国政府は,この報告書に示した方針に基づいて規則案を修正し,2014年夏の英国議会の前に公表することとしている。今後の英国における孤児著作物の利用促進の動向や,EU諸国にどのような影響を及ぼすかが注視されるところである。

関西館文献提供課・南亮一

Ref:
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/315078/Orphan_Works_Government_Response.pdf
https://www.gov.uk/government/consultations/copyright-uk-orphan-works-licensing-scheme
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/228849/0118404830.pdf
http://www.ipo.gov.uk/ipreview.htm
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2012:299:0005:0012:EN:PDF
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/riyou_enkatsuka_houkoku_201303.pdf
http://www.ipo.gov.uk/ipresearch-orphan-overseas-201307.pdf
CA1771