E1544 – フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.256 2014.03.27

 

 E1544

フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本」<報告>

 

 2014年3月13日,日本学術会議主催学術フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本:研究と学術コミュニケーションへの影響」が開催された。日本学術会議は日本の科学者・研究者の代表機関であり,2010年には「学術誌問題の解決に向けて:『包括的学術誌コンソーシアム』の創設」と題した提言を発表し,その中でオープンアクセス(OA)についても言及している。その日本学術会議に加え,文部科学省,日本学術振興会(JSPS),科学技術振興機構(JST),国立情報学研究所(NII)といった,日本のOAに関わってきた機関の関係者も集まり,日本のOAと学術情報政策について議論しようというのがフォーラムの趣旨である。

 はじめに日本学術会議科学者委員会学術誌問題検討分科会委員長の浅島誠氏からフォーラムの趣旨説明がなされた後,大西隆氏(日本学術会議会長),下間康行氏(文部科学省研究振興局参事官。研究振興局長・小松親次郎氏の代理)から挨拶が述べられた。大西氏は2013年6月に英国で行われたG8の科学大臣会合でもOAが議論されたことに触れ,国際的にもOAを進める方針があることを確認した。一方で日本の問題として,学術出版システムが欧米に比べ劣っており,研究者も積極的に関わってこなかったことを指摘し,国の研究力の中には成果発信能力も含まれ,OAへの取り組みは日本の学術につきつけられた課題であると述べた。下間氏は文部科学省の問題意識やOA関連政策について述べ,博士論文の機関リポジトリでの公開義務化やNIIによる共用プラットフォーム開発等,文科省が機関リポジトリ構築を推奨してきたことを紹介した。

 続いて安西祐一郎氏(JSPS理事長),中村道治氏(JST理事長),シマー氏(Ralf Schimmer,独マックスプランクDigital Libraryディレクター)による基調報告が行われた。安西氏は2013年に始まった科学研究費助成事業である研究成果公開促進費「国際情報発信強化」について報告し,その中でOA支援にも力を入れていることを紹介した。中村氏はJSTが日本の論文の7~8%に関わる研究助成機関であり,2013年4月からその助成研究のOA化を推奨する方針を実施したことを紹介した。さらに,現在は推奨であって義務ではないものの,2014年4月にはOA化を義務付けることも検討されていたことを明かした。結局,時期尚早として義務化は見送られたものの,今後,時間をかけた議論を経て,最終的にはOAを義務化する方向であることが強調された。シマー氏はマックスプランク協会のOAに関する取り組みや各国のOA政策,OA論文の増加状況等をまとめて紹介した。現在の購読出版モデルは時代遅れで機能不全と断じた上で,マックスプランク協会としてはOA出版を強く支持し,移行していく方針であると述べた。

 休憩を挟んで行われたパネルディスカッションでは,まず科学技術政策機関,研究者,大学図書館,出版者など様々な立場からOAに関する現状認識や主張が述べられた上で,続けて,基調報告者やパネリストらによるディスカッション,会場も交えての質疑応答が行われた。紙幅の都合もありすべての発表・論点を紹介することはできないが,全体として,日本からの国際発信力を強化するためにはリーディングジャーナル(世界の研究者から投稿を集めるトップクラスの雑誌)が日本にも必要であり,それを今から立ち上げるにはOA雑誌とする必要があるという認識を共有した上で,その実現方法について活発な意見交換が行われた。

 本フォーラムでは,研究者コミュニティの代表と学術政策関係機関の代表という,日本の学術政策を担う人々が一堂に会しOAや学術情報発信について議論したというだけではなく,OAは進めるべき路線であるというコンセンサスが既に存在し,具体的な実現方法についての噛み合った意見交換がなされていた。OAが図書館や一部の進んだ研究者の間のものではなく,日本の学術政策の中心課題の一つとなったことを再確認する場ともなった。

 このように政策関係者の間にはコンセンサスが形成されていることが示された一方で,学術情報政策は政治主導ではなく,研究者のイニシアティブによって進めるべきであるという意見もフォーラム中では多く聞かれた。日本の多くの研究者には学術情報の受発信に積極的に関与する姿勢がなく,また編集やレビューに関する教育・育成体制もほとんど存在していない。その状況を変えなければOAの推進も国際発信力の強化も難しい,とも指摘されている。OAや学術情報受発信の問題にとどまらず,研究者の育成や研究者コミュニティのあり方にまで範囲を広げて,今回同様の議論の場を引き続き設けていく必要があるだろう。

同志社大学社会学部・佐藤翔

Ref:
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/184-s-0313.pdf
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t101-1.pdf
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/13_seika/index.html
http://www.jst.go.jp/pr/intro/pdf/policy_openaccess.pdf