E1489 – 図書館システムベンダとユーザ会の共存―IGeLU大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.246 2013.10.10

 

 E1489

図書館システムベンダとユーザ会の共存―IGeLU大会<報告>

 

 IGeLU(International Group of Ex Libris Users/イグルー)はイスラエルの図書館システムベンダEx Libris社の製品を導入しているユーザのユーザ会である。欧州・北米の機関,特に大学図書館を中心として,42か国,345機関が参加している国際的な組織であり,Ex Libris社が主導している組織ではない。IGeLUの主な活動は,ユーザ会としてEx Libris社と交渉することであり,メンバーから選出された運営委員会を中心としてEx Libris社のマネージャー達と定期的な打合せを開いている。Ex Libris社の方針などに関する全体的な要望以外に,個別製品の機能強化のリクエストなどもメンバー内で意見を集約して伝えている。また,製品や,Linked Open Data(CA1746参照)などの特定のテーマごとにワーキンググループがあり,メーリングリストでの情報交換や,システムの機能や仕様の策定に協力している。IGeLUでは2006年から年次大会が開かれており,8回目の今年はドイツのベルリン自由大学を会場として開かれた。会議では基調講演,ユーザ会活動報告,Ex Libris社による製品戦略の説明・デモ,ユーザ会のメンバーによる実践例の紹介等があった。

 今回の会議で最も注目されていたのは,Ex Libris社のSaaS型図書館パッケージ「Alma」である。Ex Libris社から製品のロードマップの紹介やデモが行われ,導入した大学からは体験談の発表があった。Almaは次世代図書館サービスフレームワークとして,2012年からボストン大学等で運用が始まったシステムである。Ex Libris社の主力製品である統合図書館システムAleph,電子ジャーナル購読管理(ERMS)のVerde,リンクリゾルバのSFXの機能を併せ持っており,これ1つで紙資料と電子資料の管理・提供を実現できるものとなっている。

 Almaについて,特にユーザからの期待が高かったのは,Almaを利用している他の図書館とメタデータなどを共有できる機能(コミュニティ・ゾーンという範囲を設定して共有する)である。OCLCの提供するWorldCat Localなどのサービスとの類似を指摘されつつも,メタデータ作成の省力化を実現できる点が注目されていた。Almaを利用してさえいれば複雑なシステム連携を考慮しなくてもメタデータが共有できる。Almaには図書館間貸出(ILL)の機能もあり,ジャーナル購読のコンソーシアムや大学図書館ネットワークにも対応可能とのことである。もう1つ注目されていた機能は,利用者の利用動向を元に分析を行い,図書館業務の改善に役立てるという統計機能である。貸出履歴などの利用情報から様々なレポートを出力する機能で,利用者のニーズに合わせて蔵書やジャーナルのセレクションを最適化したいという大学図書館側のニーズを反映して開発されたもののようである。

 Ex Libris社のもう1つの主力製品であるディスカバリ・インタフェースのPrimoについてもユーザからの注目が高かった。Primoは元来,導入機関の施設内にシステムを構築・設置し,運用するオンプレミス用の製品だが,SaaSの提供も開始している。今後,FRBR化(CA1665参照)された書誌のグループ化表示,仮想本棚表示などの機能強化がなされていくほか,iPhoneアプリも公開されるとの報告があった。また,検索精度の向上のために,検索ランキングの最適化に取り組んでいるとの報告もあった。ここでは,Known-item(ユーザが何を探したいかはっきりしている資料)の検索の強化として,利用者がキーワードではなくタイトル等を入力したことを察知し,利用者が欲しいと思った資料そのものを検索結果一覧の第一位に表示させるためのアルゴリズムを開発していることが紹介された。また,Ex Libris社が収集・運用しているメタデータの統合インデックスであるPrimo Central Indexでは,オープンアクセスジャーナルへの対応が進められているという説明があった。オープンアクセスに関しては,ユーザからの質問等が多く,大きな関心が寄せられていること,またEx Libris社側もその声に応えていることがうかがえた。

 Alma関連の取り組みについて発表していたIGeLUメンバーからは,Ex Libris社のSaaSを推進していくという戦略に積極的に乗りつつも,ユーザ会として団結することで交渉力を維持し,共存していくという方策が垣間見えた。またEx Libris社側も,ビジネスとして成り立つことが前提であると言いつつも,ユーザ会と向き合う姿勢があった。両者の取り組みが図書館システムのSaaS化,共有化にどのように影響していくのか興味深い。

(電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室・川島隆徳)

Ref:
http://igelu.org/
http://www.ub.fu-berlin.de/igelu2013/
http://www.exlibrisgroup.com/
CA1665
CA1746