カレントアウェアネス-E
No.202 2011.10.13
E1224
九州大学が開始した学生による本の紹介リレー“BookLink”
2011年9月,九州大学附属図書館が“BookLink”という取組みを開始した。学生に好きな本をおすすめする紹介文を書いてもらい,それを図書館とウェブ本棚サービス「ブクログ」(E1201参照)に展示し,学生には次の紹介者を指名してもらうというものである。このサービスを企画した同館利用支援課サービス企画係の井川友利子氏にお話を伺った。
●着想のきっかけや企画実現に至るまでの道のりについてお聞かせください。
当館ではおすすめ図書の展示の注目度が高く,貸出も多いことが分かっていましたが,何かの機会に単発的に行うものばかりで,定期的に更新する企画はありませんでした。ネックになっていたのは,職員が呼びかけておすすめ図書の紹介者を集めるのが一苦労だったことです。ならば,学生自身に紹介者を探してもらおうと考えたのがきっかけでした。
また,学生の紹介図書を集めて発表しても,どこか学生に対して一方的なものとなってしまうことが気になっていました。学生を単なる図書館サービスの顧客とするのではなく,そこに関与してもらい,自らアクションを起こす「自分たちの図書館」として認識してもらいたいという思惑がありました。
BookLinkは,職員有志数名による私的な研究会での一案を出発点に,当館研究開発室の「図書館マーケティングに関する調査」班で企画案を練り上げ,実行は当係が行うという体制を取りました。本当にこれで上手く行くのかと懸念されることを予想しまして,実施の了承を得る前に,1人目から4人目まで実際にバトンをつないで紹介文をお願いしました。その中には,企画段階から関わることを面白がってくれる学生もいました。
●工夫点などについてお聞かせください。
「見た目」で第一印象が左右されるのは人間だけではなく,図書館やそのサービスにも言えると思います。そこで特にこだわったのはネーミングとデザインで,この2点に自分たちが何をしたいのか,学生にどのように受け取ってもらいたいのかを表現しようとしました。そのため,当初は「図書の紹介リレー」と呼んでいた企画に“BookLink”という固有名詞を与えてブランド化を目指し,さらに仕組みが直感できるような「本がつながる、みんながつながる」というキャッチコピーを考えました。デザイン面では,「つながる」にちなんで虹をモチーフとし,元ウェブデザイナーの職員を中心に,ロゴ,特設サイト,展示パネルを作成しました。
●周囲の反応についてお聞かせください。
展示図書は開始2日目にして貸し出されてしまいました。設置場所もよかったのか,図書がなくても多くの方が足を止めて見てくださっています。Linkerさん(本の紹介者)からは,これがきっかけで,それまであまり話題にしなかった本のことを友達と話すようになった,周りの人から「あれって○○が書いたの?」とたくさん聞かれた,と嬉しそうに報告してくれます。BookLinkに限らず,いちど図書館と個人的につながりを持った学生はその後もいろいろと図書館のことを気にかけてくれる,いわば図書館のファンになってくれます。またその友達も「アイツ,図書館で何かしているらしい」と図書館の存在が身近になるようです。そうして草の根的にじわじわとファンを増やしていっています。
●今後の展開についてお聞かせください。
学内での浸透はまだまだこれからです。学生に図書館で借りた本や最近読んだ本について,Twitterでハッシュタグ“#booklink”をつけてつぶやいてもらうキャンペーンなど楽しいかもしれません。また,学生向けの図書を紹介する教員版BookLinkも実現させたいです。意外な先生同士のつながりが見えることも期待しています。
●面白い企画を立てるコツについてお聞かせください。
月並みですが,図書館や本の世界に留まらずいろんなところにアンテナを張ることです。面白いなと思ったら,図書館でやったらどうなるだろうと妄想します。完全にオリジナルの企画はなく,何かの真似をして本学向けにアレンジすることばかりです。BookLinkも「いいとも」の形式に本の紹介をあてはめたものです。もうひとつは,とにかく「思いつき」の状態から同僚や学生アルバイトさん,常連さんに話すことです。そういう話を聞いてくれる仲間や「やってみろ」と言ってくれる上司がいるこの環境はありがたいですし,次の企画を考えるモチベーションになっています。