E1076 – 講演会「電子図書館の可能性」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.175 2010.07.22

 

 E1076

講演会「電子図書館の可能性」<報告>

 

 2010年7月16日に,国立国会図書館(NDL)関西館で,講演会「電子図書館の可能性」が開催された。長尾真NDL館長の講演及び大場利康NDL関西館電子図書館課長の報告と,仲俣暁生氏(「マガジン航」編集人)及び藤川和利氏(奈良先端科学技術大学院大学准教授・電子図書館研究開発室長)を交えたパネルディスカッションが行われた。

 長尾館長の講演は「理想の電子図書館へ向けて」と題して行われた。Googleによる書籍デジタル化事業についての話から始まり,人類の知は分けへだてなく全ての人が享受すべき公共な財であること,自国の知的資源は自国で守り積極的に発信する必要があること,そしてそれは永続性の点から公的機関が行うことが妥当であること,等の見解が示された。直接来館できない人にも同等のサービスを提供するというNDLの理想を実現するためにも,電子図書館が重要となるとされた。

 著作権制度に関しては,著作権者不明作品に係る文化庁長官による裁定手続きの簡素化や,著作権者データベースの創設等の提案があった。さらに,著作物の相互利用を促進するために,著作者の持つ権利を,許諾権から報酬請求権に移行させていくという方向性もあるのではないかとの見解が示された。

 大場電子図書館課長による報告では,NDLで実施している「近代デジタルライブラリー」「インターネット資料収集保存事業」「デジタルアーカイブポータルPORTA」の3つの事業について説明が行われた。

 パネルディスカッションに先立ち,藤川氏と仲俣氏から簡単なプレゼンテーションが行われた。藤川氏からは,「電子書籍は通常の閲覧よりも検索やマルチメディア資料においてその活用の可能性が大きい」「情報を集め体系的に整理して提供することが電子図書館の機能である」という見解が示された。仲俣氏からは,「電子図書館と電子書籍は近づきつつある」という指摘とともに,「コンテンツの収集と,コンテンツに関する情報の整備のどちらが重要か」「コンテンツのデータベース化は誰が担うのか」という問題提起がなされた。

 中井万知子NDL関西館長の司会で行われたパネルディスカッションでは,まず,本の一部分だけを検索で取り出すことが可能となるという電子図書館の利点や,その実現のための課題について意見が交わされた。次に,長尾館長が構想する電子書籍の流通モデルについて,Googleとの比較も交えながら議論された。また,公共図書館について,電子書籍サービス導入への課題や,地域の情報の保存・提供で果たす役割等について,パネリストから見解が示された。質疑応答では,個人が作成した電子出版物やブログ等の収集や,電子書籍の保存等について会場から質問があった。

 講演会には150人以上の聴衆が参加し,その様子はウェブで生中継されるとともに,Twitter上でもハッシュタグを用いたやりとりが行われた。

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/dl_future.html
http://togetter.com/li/35818