E1073 – 15年後の米国の高等教育及び大学・研究図書館

カレントアウェアネス-E

No.175 2010.07.22

 

 E1073

15年後の米国の高等教育及び大学・研究図書館

 

 米国大学・研究図書館協会(ACRL)は,2010年6月に,米国の高等教育及び大学・研究図書館の今後15年間の動向を予測したレポート“Futures Thinking for Academic Librarians: Higher Education in 2025”を公表した。

 レポートには,図書館員らが図書館の価値を設置母体に対して示すためには,現在の状況だけではなく,将来についても考えねばならないとの観点から,そのための材料として,今後15年間の様々な分野の動向を予測した26のシナリオが示されている。また,それぞれのシナリオには,およそ2,900人のACRL会員の協力によって行われた,実現可能性や影響の大きさ,実現するまでの時間等についての評価のまとめも掲載されている。ここでは比較的図書館に関係が深いと思われるシナリオをいくつか紹介する。

  • オンデマンドのアーカイブ
    3Dプリンタが普及し,各機関のアーカイブを利用して,教員や研究者,学生らはそれぞれがみな製作者となる。例えば,歴史を専攻する学生が遠方のアーカイブや博物館から資料の複製を3Dでプリントし,他の分野でも,遠隔学習を行っている学生が太陽系の模型や遠い異国の織物等を手元で作るようになる。その結果,物質文化の研究が広がり,図書館の特別コレクションが世界中の人々の目に触れられる。
  • サイバー犯罪の拡大
    大学や図書館の情報システムは,ハッカーや犯罪者等の標的となる。大学のIT技術者は,学生らのレコードや予算データを保護しようと努め,図書館員は,オンライン上の知的自由を保持しつつ,利用者のプライバシーを守ろうと奮闘する。
  • 検索能力は不要に
    コンテンツ認識ソフトが書かれた内容を理解し,高質で精査されたメタデータや引用文献,画像を付与してくれる。情報の収集や評価を機械が行ってくれるため,人々はそうした検索に係る能力を必要とせず,得られた情報やデータの総合・分析・解釈に時間を費やすようになる。
  • 廃業
    情報関連企業が支配的になり,大学図書館の存在やその必要性が低下していく。図書館員のキュレーションの技能は重宝されるため,彼らはこうした情報関連企業に雇用される。
  • 画面上のキャンパス
    オンライン学習の爆発的な普及により,物理的なキャンパスを維持するのはごく一部の機関のみとなる。大学や図書館のサービスや機能は無くなるわけではないが,物理的な場所を伴わないヴァーチャルな世界でのみ存在するようになる。

 

Ref:
http://www.acrl.ala.org/acrlinsider/2010/06/21/futures-thinking-for-academic-librarians/
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/acrl/issues/value/futures2025.pdf