2020年1月7日、ブルーシールド国際委員会(Blue Shield International:BSI)は、米・トランプ大統領によるイランの文化遺産を軍事攻撃の標的とする可能性を示唆した発言について、ウェブサイト上で深刻な懸念を表明しました。
BSIの表明では、軍事的必要性のない文化的・宗教的施設の意図的な攻撃は、米国も批准済の1954年ハーグ条約をはじめとする複数の国際法で、いかなる場合においても禁止されていることや、近年も文化財に対する意図的な攻撃が国際刑事裁判所(ICC)で有罪判決を受けた事例があることが指摘されています。BSIは、米国が戦争犯罪を犯すことを回避し、いかなる形であれイランの文化遺産に脅威を与えないように、トランプ大統領に対して軍事攻撃の標的リストから文化遺産を削除することを求めています。
トランプ大統領の発言については、複数の国際的な文化遺産に関する組織が抗議の意を表明しています。1月6日付で、国際博物館会議(ICOM)と国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が共同で、文化遺産の意図的な破壊を強く非難し宗教的信念又は政治的意図にかかわらず世界の文化遺産の保護を求めた声明を発表しています。また、同日付でユネスコ(UNESCO)は、事務局長とイラン大使との間で文化遺産に関する中東の緊張について議論が交わされ、文化遺産の破壊行為が1954年ハーグ条約や2017年に全会一致で決議された国際連合安全保障理事会決議第2347号に抵触すること、文化遺産・自然遺産を国際社会が将来世代のために保存・保護する義務があること等を確認したことを発表しました。
国際図書館連盟(IFLA)は2020年1月9日付で、BSIによる文化遺産への脅威を取り除く要求への全面的な支持と、武力紛争時の文化遺産保護の重要性を主張する国際的なコミュニティへ加わる意を表明しています。
BSI Statement on potential specific targeting of cultural sites in Iran (ENG)(BSI,2020/1/7)
https://theblueshield.org/bsi-statement-on-potential-specific-targeting-of-cultural-sites-in-iran/
ICOM and ICOMOS jointly and strongly condemn any deliberate destruction of cultural heritage(ICOM,2020/1/6)
https://icom.museum/en/news/icom-and-icomos-jointly-and-strongly-condemn-any-deliberate-destruction-of-cultural-heritage/
Meeting of Director-General and Iran’s Ambassador to UNESCO(UNESCO,2020/1/6)
https://en.unesco.org/news/meeting-director-general-and-irans-ambassador-unesco
IFLA Joins Blue Shield International to Oppose the Targeting of Iranian Cultural Sites(IFLA,2020/1/9)
https://www.ifla.org/node/92754
参考:
E688 – ブルーシールド―危険に瀕する文化遺産の保護のために<文献紹介>
カレントアウェアネス-E No.112 2007.08.29
https://current.ndl.go.jp/e688
E909 – 米国が武力紛争の際の文化財保護条約を批准
カレントアウェアネス-E No.147 2009.04.08
https://current.ndl.go.jp/e909
ブルーシールド、イエメンの文化財保護に関する声明を公表
Posted 2015年6月5日
https://current.ndl.go.jp/node/28612
ブルーシールド、イラクの文化財保護に関する声明を公表
Posted 2014年7月11日
https://current.ndl.go.jp/node/26562