学術雑誌契約のオープンアクセス(OA)要項モニタリングに必要な論文レベルのメタデータのチェックリスト化(文献紹介)

2019年11月26日付で、英国逐次刊行物グループ(UKSG)が刊行するInsights誌において、論文“Monitoring agreements with open access elements: why article-level metadata are important”が掲載されました。英・JiscのMafalda Marques氏、オランダ・ライデン大学図書館のSaskia Woutersen-Windhouwer氏、フィンランド国立図書館のArja Tuuliniemi氏による共著論文です。

近年、コンソーシアムや学術機関が、論文処理費用(APC)の割引・オフセット契約・“Read and Publish”契約といったオープンアクセス(OA)要項を含む契約を出版社と締結する事例が増加しています。こうした契約を締結した場合、コンソーシアムや学術機関はOAで出版された論文数、契約のコスト、契約の価値をモニタリングする必要があるため、出版社は契約に基づきOAで出版された論文に関して、コンソーシアム・研究機関・資金助成機関に対する説明責任を負います。出版社がこうした説明を行うための方法の1つは定期的に論文レベルのメタデータをレポートとして報告することです。

同論文は、高等教育・研究向けインフラの活用と開発を目的とするプロジェクトKnowledge Exchange(KE)のOAモニタリングに関するワーキンググループの取り組みの結果として作成されました。KE参加機関の所在する6か国(英国・フランス・ドイツ・オランダ・デンマーク・フィンランド)が主要学術出版社12社と締結した学術雑誌に関する契約のうち、27件のOA要項を含む契約及び関連文書について、それぞれの契約でコンソーシアム・機関側が要求した論文メタデータの一覧と出版社が提供した論文メタデータの一覧の比較・分析が試みられています。KE及び論文処理費用(APC)管理等の議論に関わるイニシアチブESAC(Efficiency and Standards for Article Charges)が作成した、OA要項を含んだ契約交渉における確認すべき推奨事項をチェックリストとして使用することで、一定の基準の下で比較・分析が行われています。

比較・分析の結果として、KEやESACの推奨事項の全てを出版社に要求したコンソーシアム・機関はなかったこと、多くの場合コンソーシアム・機関の要求よりも少ない数の論文メタデータが出版社から提供されていること、コンソーシアム・機関の要求するメタデータ・出版社の提供するメタデータの双方に一貫性がないことなどが指摘されています。また、APC支払の請求と報告など出版社から提供されやすいメタデータがある一方、資金助成に関するメタデータは特に提供されがたい傾向にあるなどの相違を観察することで、出版社からのメタデータ配信が得られるように一層の努力の必要な分野が確認できた、としています。

同論文では比較・分析の結果から得られた結論として、出版社から十分な論文メタデータが提供されないことやコンソーシアム・機関と出版社双方の非一貫性を改善するため、KEやESACの作成した推奨事項をテンプレート化し、論文メタデータの要求・提供にあたってのチェックリストとして活用することを推奨しています。

Marques M.; Woutersen-Windhouwer S.; Tuuliniemi A. Monitoring agreements with open access elements: why article-level metadata are important. Insights, 2019, 32: 35, p. 1–13.
https://doi.org/10.1629/uksg.489
https://insights.uksg.org/articles/10.1629/uksg.489/
https://insights.uksg.org/articles/10.1629/uksg.489/galley/892/download/
※三つ目のリンクが本文です[PDF:13ページ]

参考:
Knowledge Exchange、雑誌論文のオープンアクセス(OA)化にかかる費用についてのレポートを公開
Posted 2017年8月16日
https://current.ndl.go.jp/node/34517

APCと雑誌購読費用: OAのコストを監視する(文献紹介)
Posted 2016年7月4日
https://current.ndl.go.jp/node/31999