カレントアウェアネス
No.136 1990.12.20
CA704
アメリカにおける未公表文献の公正利用問題
−4語の挿入をめぐる著作権法の攻防
ことの始まりは1つの判例であった。Harper & Row社はフォード元大統領の回想録出版の契約を同氏と結ぶとともに,その抄報をTime誌に連載させる契約をした。ところが回想録の出版も抄報の連載もされないうちにNation誌がニクソン元大統領恩赦の内情を回想録の引用を交えてスクープとして報道してしまった。このためTime誌は契約をキャンセルし,H & R社はNation誌に損害賠償を求めて告訴。連邦最高裁は「publishされていない著作については公正な使用(fair use)は限定される」としてH & R社を勝たせた。(Harper & Row, Inc., et al. v. Nation Enterprises et al., 471 U.S. 539 (1984))。この先例にならって大出版社が集中するニューヨークを管轄する連邦控訴裁判所で二つの判決が出た。どちらも本人の関与していない伝記で,一方は被伝者の書簡を受取人が大学図書館に寄贈したものの引用,他方では情報自由法に基づいて入手した文書等の引用を含んでいた。前者においては,最高裁の先例を「Publishされていない著作は完全に複製から保護される」と解釈している。
ことここに至って著名人を含むライター達から抗議の声が上り,議会の委員会が著作権法改正の是非を検討し始めた。改正の内容は「公正な使用」を扱った条項に“whether published or unpublished”(publishの有無に関わらず)の4語を挿入するかどうかであるが,公聴会にも様々な立場から賛否両論が寄せられている。海の彼方の話であり,図書館が扱う資料はpublishされたものが通常なので他人事ともいえるが,文書館やpublishされていない原資料を扱う図書館は注意しておく必要があろう。書簡や日記などは,図書館の資料入手先の人物が,物の所有者ではあっても,それに収録されている著作の権利の所有者ではないことが多いからである。
なお続報によると,この修正案は審議未了で今会期では廃案が決まった。この背景には,Pub1ishされていない資料として扱われるコンピュータ・プログラムの盗用を恐れたコンピュータ業界のロビーイングがあったとも言われている。思わぬ伏兵に会った出版界は当然のことながら廃案に不満を表明しているため,この問題は当分続きそうである。
坂本 博(さかもとひろし)
Ref: Congress considers amending Copyright Act's fair use doctrine. Library of Congress Information Bulletin 49 (18) 309-311, 1990.
Cohen, Roger. Eased copyright bill is scuttled in clash. The New York Times 1990. 10. 13