カレントアウェアネス
No.119 1989.07.20
CA609
生涯学習体制下の公共図書館とNDLの図書館協力をめぐって
最近,公民館からの「図書館間貸出」への加入申請をはじめとし,財団などにより委託運営されている図書館からも申請を受けるようになった。NDLへの資料要求がますます活発になってきている現状にかんがみ,図書館協力部国内協力課では日本図書館協会の花房良三氏に話を伺った。
日本の公立図書館を取りまく状況は次のようである。
1) 臨時教育審議会の答申による生涯学習論を基本政策として,文部省は機構改革により生涯学習局を筆頭局に生涯学習振興課を同局第一課とした。図書館を所管するのは同局学習情報課である。その後,文部省は日図協へ現状をふまえた公立図書館の新しい基準の策定可能性を打診している。昭和47年に「公立図書館の望ましい基準」が社会教育審議会施設分科会で論議されたが,案のままになっている経緯がある。そして最近,日図協政策特別委員会が「公立図書館の任務と目標」と同「解説」を作り刊行した。サービスの基準としての数値を示すと「高すぎる」「低すぎる」との声が出たことを考慮し,又日本の図書館がさまざまな状況におかれているので,単一の基準を設けず基本的な考え方を提示し,自治体自らが自らの状況に適した基準を作りあげていくものと考えた。現在,文部省が求める新しい基準も積極的に受けとめ図書館行政発展のために協力していこうと考えている。図書館の目標基準につき,成熟した,発展途上の,その中間の3段階の捉え方も考慮されている。
2) 今年1月に総理府が発表した「生涯学習に関する世論調査」によると作ってほしい公立社会教育施設として1位が図書館であった。遅れていると言われる図書館行政の中でのこれは注目すべき点である。しかし地域間に図書館の格差は拡大する傾向にある。数字でみると「望ましい基準」の住民1人当りの貸出冊数年2冊というギリギリの数を昭和56年の21%から7年間で43%の図書館が越えている。デンマークの1人17冊('84)に迫まる図書館が出てきているのは事実だが,一人当りの貸出冊数が1冊又は0.5冊の市区町立の図書館は,減る傾向にはあるが望むようには減っていない。この進む所は進み,遅れている所は低迷のままという事態を見る必要がある。
3) 最近,新設新築される図書館の約3割が文部省以外の通産省,防衛庁,郵政省等からの補助金で建てられている。又,図書館条例を持たない図書館が出て来て,これが今一つの流れとなっている。図書館条例を持たない場合は議会を通さずに理事者の意志のみで図書館の改廃ができる。この流れの分岐点として条例を持っているかということと,図書館法に基く条例を持っているか,又その施設であるかがある。実際,条例を持たない場合,図書館長や職員について,又国や県の補助の問題で齟齬を生じることがある。日図協は「図書館法に基く図書館を」と言っている。このように図書館設置の体制という基本部分が掘りくずされていると同時に,管理運営の民間委託も一方で進んでいる。
4) 公民館数17,000館,内図書室所有率38%すなわち,6,669館,この数は公立図書館数1,800館の3.5倍('84)である。公民館図書室に対しては県内の図書館網に組み込んでいる所とそうでない所とある。公民館と図書館の目的は異なるが図書館サービスをしている公民館図書室に対しては,大切に迎えて,県内図書館システムの中に包み込むことが大事である。未設置地域に図書館を作っていくことは必要だが,図書館ができても公民館図書室としての役割は残る。公民館図書室を育てるという観点に立って一定の基準に達した所にNDLのサービスをすると考えてもいいのではないか,と花房氏は提言していた。
当館が貸出し対象としている図書館には入らない公民館図書室や民間委託の図書館に貸出し対象の枠を拡げることは,その利用者の要求に応える意味では協力すべきであろう。公共図書館をとりまく流動的な状況を正しくとらえる努力を続けて,NDLの図書館協力の方向づけに活かし,さまざまな力量を持つ図書館への地域および館種間での協力を援助してゆければと,担当者は考えている。
神成玲子