カレントアウェアネス
No.119 1989.07.20
CA607
カリフォルニア大学バークレー校−「三井プロジェクト」終了
アメリカの名門校であるカリフォルニア大学バークレー校の東アジア図書館は,全米でも有数の日本語資料コレクションを誇っている。その中には,戦後日本から渡った十万冊にものぼる三井家旧蔵三井文庫本が含まれる。長らく本格的な目録作成が行われないまま,保存書庫に眠っていたこれらの資料を整理するため,1985年から2回にわたり日本の図書館員を加えての通称「三井プロジェクト」が行われ,今回一応終結の運びとなった。ここでは,88年4月から1年間にわたり行われた第二次プロジェクトを中心に紹介しておきたい。
85年9月から翌年11月までの第一次プロジェクトは,このコレクションの中でも貴重な江戸期の版本及び古地図の目録作成を目的とし,それぞれの専門の研究者とともに,国立国会図書館からの派遣職員2名を含む3名の司書が海を渡った。当初の予定通り古地図の目録はRLIN(Research Libraries Information Network)に入力され,版本の目録も現在刊行の準備が進められている。その成果に基づき,東アジア図書館は再度,米教育省の助成を得て残された明治以降1945年までの三井文庫本,及び約2500タイトルの遠藤周作氏寄贈図書を対象に第二次プロジェクトを実施した。慶応大学三田情報センターから1名,大阪府立中之島図書館から1名,国立国会図書館から2名の計4名の司書がいずれも派遣職員として1年間チームを組んだ。
整理した三井文庫本は,約5,500タイトル,内容的には,もと土肥慶蔵旧蔵鶚軒文庫本が明治期の漢詩文のコレクションとしてまとまったものであるほかは,経済,歴史,宗教,文学,自然科学,総記とあらゆる分野にわたり明治初年に出版された翻訳書から大正期の通俗健康法,あるいは催眠術,また三井財閥関係の雑誌切抜きまでともかくバラエティに富んでいる。保存状態はかなり良好とはいえ,洋装本には修復を要するものもあり,帙のない和装本については大学の中央図書館の保存課に依頼し保存箱を作製してもらっている。中国で発行された漢籍は,東アジア図書館の中国部司書が整理することになった。
海外の図書館との協力関係は,さまざまな図書館資源のやりとりによって築かれてゆくと言えようが,人的交流もその一つであろう。しかし,いずれの側も財政難,人員不足は同じであり障害は多い。「三井プロジェクト」は,これを乗越えた幸運な例であったと言えるだろう。
中井万知子
Ref. 児玉史子ほか UCBの一年三か月 国立国会図書館月報(317) p.18-21, 1987.