カレントアウェアネス
No.268 2001.12.20
CA1442
英国の大学図書館における著作権処理の実態
英国の大学図書館では,教育に関連する情報源を利用者にとってより使いやすいものとするため,業務の一環として,資料の電子化や様々な教材パッケージの作成を行うようになっている。しかし,これまでの包括許諾契約で賄いきれないこうした活動を行うには,現行の著作権法のもとでは個別に権利者の許諾を得る必要があり,著作権処理が図書館にとって負担となっている。
こうした著作権処理の実態を把握するため,昨年,ラフバラ大学図書館(Loughborough University Library)は調査プロジェクトとして,英国の大学等を対象に著作権処理の実務状況に関するアンケート調査を行った。この調査は,複数のメーリングリストで参加を呼びかけ,回答者にはWeb上に設置した質問票に書きこんでもらうという方式を取った。
回答は68の機関から寄せられ,その過半数(56%)が図書館で大半の著作権処理を行っており(図書館員による処理が38%,専門の職員による処理が18%),個々人による処理(35%)や,著作権の専門担当部署による処理(9%)を上回った。また,実務量などの平均については以下のとおりであった。
- 著作権処理を行う資料数:439点/年
- 処理を終えるまでに要する期間:2〜4週間
- 処理を督促する割合:依頼の3分の1
- 処理の督促回数:315回/年
- 許諾申請に回答の来ない割合:5%
著作権処理の担当者は,著作物の使用許諾契約の文言が多様で不明確なことに嘆息し,利用者に最善のサービスを提供することと,著作物の利用を合法的な範囲に留めることとのバランスに苦心する一方で,利用者と権利者の双方から疑いの目で見られるという居心地の悪さを感じているという。このあたりの事情は万国共通のものかもしれない。
著作権処理の内容について見てみると,まず,ほとんど(93%)の機関がCLA(Copyright Licensing Agency:権利者サイドの設立による複写権管理団体)から高等教育機関向けの包括許諾を受けていた。このような包括許諾でカバーされず,個別に処理を行っている事項としては,コースパックの作成(55%の機関)が最も多く挙げられ,一時貸出(同47%),遠隔教育用教材の作成(同38%)がこれに続いた。コースパックとは,講義等で補助的に用いられる編集教材のことで,CLAの定義では,著作物の抜粋の4部以上のコピーで総計25ページを超えるものをいう。77% の機関は CLARCS(CLA's Rapid Clearance Service)やBLDSC(英国図書館文献供給センター)など何らかの著作権処理センターを利用して,こうした権利処理を行っている。英国の大学では,教材提供に伴う著作権処理が,図書館を中心に広くシステマティックに行われているといえそうである。
その英国で「将来,著作権処理はより容易になると思うか?」との質問にイエスと答えた回答者は,わずか36%であったという。我が国で同じ質問を行ってみたらどのような結果になるか,興味のあるところである。
越田 崇夫(こしだたかお)
Ref: Gadd, E. Clearing the way: copyright clearance in UK libraries. Libr Inf Res News 24(78) 4-12, 2000
CLA. Higher education copying accord. http://www.cla.co.uk/have_licence/support/he-support-accord.pdf] (last access 2001. 11. 5)
Loughborough university. Library research projects. [http://www.lboro.ac.uk/library/projects.html] (last access 2001. 11. 9)