CA1264 – 公共図書館における調査研究活動 / 清水悦子

カレントアウェアネス
No.239 1999.07.20


CA1264

公共図書館における調査研究活動

図書館情報学研究を進展させる担い手には,2つのタイプのグループがある。1つは大学をはじめとする機関の研究者であり,もう1つは現場の図書館員である。後者の行う研究は,さらに大きく2つに分類できる。実務の中で時間を見出し個人的に研究を行う場合と,図書館の業務として位置づけられたプロジェクトなどで研究を行う場合である。個人的な研究の成果は,最終的に学術雑誌などに掲載されれば人々の目に触れることになるが,図書館の業務に位置づけられた研究の成果は,その図書館の内部だけでとどまってしまうことが多い。業務としての研究は,当該図書館の問題解決のために行われることが多く,広く公表する必要がないと判断されるため,と考えられる。

本稿では,イギリスの公共図書館における調査研究活動(以下「公共図書館研究」と言う)に関するグッダール(Deborah Goodall)の研究を中心に報告する。グッダールは,イングランドのウエストミッドランドおよびノースイースト地域にある20の図書館行政庁を例に取り,図書館長またはそれに相当する人物に対してインタビューを行った。質問項目および回答の詳細は紹介されていないが,インタビューの分析により次のようなことが明らかになったとしている。

研究の形態・目的など サンプルとなった図書館で行われた研究プロジェクトの多くは組織内部で実施され,外部の資金を得たものや共同研究の例は少なかった。研究の目的は,図書館サービスを正当化するため,(サービスの)優先順位を明らかにするため,自分たちの実情を論じるため,などであった。インタビューへの回答の中には,「研究は,図書館の主たる機能ではない」というような前向きとはいえないものもあった。

予算 予算は日々の活動に充てるだけで精一杯であるため,研究を行うには外部からの資金を獲得する必要があったが,資金源についての知識が不足していたり,外部資金の導入に地方自治体が消極的だったり,という問題もあった。研究のための予算がない場合には,他の項目の中に紛れ込ませるなどの手法で資金を捻出する例もあった。

人手,問題点など 研究に際しては,専門知識を持つ内部の人に頼る傾向があった。または,つてを頼ってエコノミストの知識を得る(図書館員の配偶者に尋ねるなど)こともあった。困難な問題としては,研究をするための時間をどうやって見つけるか(他の人が業務をカバーするなど),自治体毎に方針が異なるため共同研究がしにくい,結果を共有しないことから生じる損失,などがある。

グッダールは,公共図書館研究の調査活動および方法は実際的サービスの開発という単純な問題に限定され,サービスの社会的経済的影響を明らかにするというような難しい問題には広がらない傾向があった,と指摘した。また,公共図書館における研究能力は明らかに未開発である,と述べた上で,今後,公共図書館サービスの戦略的可能性を実現するためには,図書館の研究活動は,自治体の方針策定にも影響を与えうるものにならなければならない,と訴えた。

グッダールと同様の研究をパルス(John Pulse)も行い,個別の研究・調査は各図書館の問題だが,全国的なガイダンス(協力や資金源,方法論などについて)も有益であると述べている。また,これまでの図書館研究は,結果を限定的にしか公表せず,フォローアップもされなかった,という問題点を指摘している。

多少古くなるが,1994年2月に開催されたセミナーでも,公共図書館研究の問題点について話し合われた。指摘された問題点は前述の研究と重複するので,ここでは割愛する。公共図書館研究では何が研究されるべきか,という議題では,ある参加者が次の5つにまとめて答えた。「公共図書館と社会」「公共図書館と技術」「政治舞台における公共図書館」「公共図書館と経済」「公共図書館と新しい経営管理重視思想(new managerialism)」。また,公共図書館と大学・大学図書館との共同研究の重要性が強調された。

慶應義塾大学の田村俊作は,図書館研究の意義について,(1)自分たちが日々行っている業務にしっかりした基盤を与えたい,とする希望(2)図書館をより広い法・社会・政治・経済,および技術の枠組みの中で捉えること(3)変化する環境の中で,図書館が採り得る方向を提示すること,の3点で表現している。また,「このような研究は図書館の中で行ってこそ意義がある」とも言う。そしてまた,すでに紹介した研究やセミナーと同様,「図書館での研究と大学での研究が緊密な関係を保つべき」であることを強調する。

日本の図書館でも館種を問わず,1つの館の人・予算のみによって内部で大規模な調査研究を行えるところは,多くはないだろう。しかし,多くの図書館員が自館の抱える個別の問題や広く図書館界全体に共通する問題を意識し,田村のいう(1)〜(3)を実践したいという希望を持っているものと思われる。

現在のNDL図書館研究所も,NDLにおける調査研究プロジェクトの事務局として館内外から人を集め,研究のコーディネーター的な活動を行っている。ここからさらに発展して,現役の図書館員,大学等の研究者も広く参加して図書館の中で研究が行えるような環境作りに,関西館での設置が想定される研究・研修のためのセンターが一翼を担ってくれることを期待したい。

清水 悦子(しみずえつこ)

Ref: Goodall, Deborah. Research activities and UK public libraries: past imperfect, future tense? Libr Manage 19 (8) 459-468, 1998
Public library research: its future organization and funding. Public Libr J 9(3) 75-77, 1994
田村俊作.研究所の夢:図書館研究所(NDL)のいまをめぐって.びぶろす 47(10)6-10,1996
Schlicke, Priscilla. Research strategies for information. Inf Manag Rep 18-19, 1997. 5