3. 平成16年度 調査報告 3.1. 調査目的

3.平成16年度 調査報告

3.1.調査目的

 平成15年度の調査結果は、特別な長期保存と長期アクセスのための対策をとらない場合には、相当数のものが利用不可能となることを示している。対策としては一般に、エミュレーションやマイグレーションが必要だと言われている。

 

(1)マイグレーション

 プログラムやデータの移行および変換作業であって、同種の新しい媒体に移し替えること(FDからFDなど)、異種の媒体に移し替えること(CD-ROMからDVD-Rなど)、記録形式を最新のものにすること、再生用アプリケーション・ソフトウェア(電子資料それ自身が再生対象のアプリケーション・ソフトウェアであることもある)を他の環境で動作させるために作り直すことを意味する。

 いくつかのマイグレーション方法があり、その分類法も一つではないが、ここでは以下のように分類する(11)

 

(1)同種の新規媒体に移し替えること

(2)異種媒体に移し変えること

(3)データ形式を変換すること

(4)プログラムやシステムを新規環境に移行すること

 

 (1)の同種媒体への移行はすべての電子資料に適用可能である。短期的には、技術的にも作業的にも容易である。しかしコピープロテクトが施された媒体の移行は技術的に困難であることが多いと予想される。

 長期的には、媒体規格の旧式化にともない、ドライブや媒体を入手することが困難となり、さまざまな技術的課題(ドライブの維持など)が生じる。

 作業自体は単純であるが労働集約的にならざるを得ず、所蔵資料数に比例して増大する作業量は無視できない。さらに、媒体が劣化する前に新規媒体に移行する必要があり、媒体寿命の個体差を考えると、移行は媒体寿命といわれる年数より相当に短いサイクルで繰り返さざるを得ない。

 媒体規格は変遷し旧式化するものであり、いずれは異種媒体への複写を行わざるを得ないことを考えれば短期的には有効であっても、長期的な有効性は疑問である。

 (2)の異種媒体への移行は、(1)と同様に、技術的にも作業上も容易であるが、コピープロテクトが施された媒体の移行は技術的に困難であると思われる。

 移行先が十分な規模の単一のストレージでない限り、同種媒体への移行と同様に労働集約的なものとなり、長期的には作業上の負荷が大きい。

 しかし同種媒体への移行とは異なって、中長期的に(期間を示すのは困難であるが)有望な媒体が移行先として選ばれるはずであり長期的に有効だといえる。

 (3)のデータ形式変換は、JPEGをJPEG2000に変換する、RTFをPDFに変換するなどのデータ形式の変換作業である。変換先データ形式が標準的なものであって、今後も広く使われつづけると思われる形式であれば、再生手段の維持は容易となる。この作業は、販売または無償配布されている変換プログラムを利用することにより容易に行うことができる場合もある。

 変換が可能なのはデータであり、プログラムを含む電子資料の変換は通常は不可能である。

 (4)のプログラム移行は、仕様書や設計書、ソースプログラム一式を揃え、必要個所の修正を行いプログラムを再作成することである。商用ソフトウェアの必要物一式の入手は困難なので、適用対象は組織内部で作成したプログラムなどに限定されると思われる。マイグレーションというカテゴリーには含めているものの、他の方法と比べて、作業内容も複雑であり、必要とされる技術レベルも高い。

 

(2)エミュレーション

 動作環境を他の環境上で擬似的に再現し、旧式環境用のソフトウェア(OSやアプリケーション・ソフトウェア)を動作させることである。

 電子資料を再生するためには、そのための環境、つまり、特定のハードウェアとソフトウェアを必要とする。しかし、ハードウェアの寿命は短く(12)、動作可能な状態で保持しつづけていくことは現実的ではない。エミュレーションはハードウェアを擬似的に再現する。(OSまで擬似的に再現する場合もある。)

 最新環境でエミュレーションを行うということは、最新のハードウェアと最新のOS上で旧式のハードウェアや旧式のOSなどと同等の働きをするアプリケーション・ソフトウェアであるエミュレータを動作させることである。

 通常、アプリケーション・ソフトウェアは、OSを通じてハードウェアの機能やOS自体の機能を使う。エミュレーションを行うエミュレータは、アプリケーション・ソフトウェアの位置にあって、擬似的に、旧式ソフトウェアが必要としている機能を再現している。

 ハードウェアやOSが移り変わっても、エミュレータのみ作成すればそれまでのアプリケーション・ソフトウェアやOSを利用することができる。

 このようなエミュレータは多数作成され、頒布されている(13)。しかし、独自に作成するためには技術力が必要であり、完全に旧式環境を再現するとは限らない。

 

 これらの対策は、いわば机上の理論であり、その効果や課題は実践によってのみ明らかにすることができる。平成16年度の調査は、国立国会図書館が所蔵するパッケージ系電子出版物にマイグレーションとエミュレーションを実際に適用し、これら対策の効果と課題を明らかにすることを目的として実施した。

 

(11) OAIS(Open Archival Information System:開放型記録保管情報システム、電子情報の長期保存システムの抽象的な仕様を規定した技術標準、ISO14721:2003)のマイグレーション分類では、refreshing、replication、repackaging、transformationである。

(12) ハードウェアを構成する電子部品には短寿命なものが多数使用されている。

(13) 付録1参照。