カレントアウェアネス-E
No.158 2009.09.16
E975
ケンブリッジ大学による,世界の口承文学を収集する取組み(英国)
グローバル化にともなう社会の急激な変化の波に押され,消え行こうとしている口承文学を救うため,ケンブリッジ大学のトゥーリン(Mark Turin)博士を中心とする“World Oral Literature Project” が2009年1月から進められている。
ここでいう口承文学には祭文,まじない,民話,民謡,ことわざ,なぞなぞ,早口言葉など,口伝てで代々受け継がれてきた,言語をともなう営みが広く含まれる。トゥーリン博士によると,現存する6千以上の言語のうち,約半数が今世紀末までには日常言語でなくなるという状況にあり,世界中の生活様式が一様化していくなか,世界各地の多様な口承文学が失われつつある。こうした文化的危機に対し,人材育成,デジタル技術に関する情報提供,資金提供などを通じて,世界各地の口承文学の収集と保存活動を推進する永続的な中枢となることを目標に,このプロジェクトは始まった。
将来的にはデジタル技術によって記録された口承文学を収集してデジタル・アーカイブを構築し,オンライン上で公開することを目指している。プロジェクトでは,口承文学の後継が途絶えたときにデジタル・アーカイブが参照されることを念頭に置き,デジタル・アーカイブの意義を研究目的に限定せず,文化の継承手段として活用する方針だ。
口承文学の収集作業に当たってプロジェクトは,対象地域出身の研究員を積極的に支援する方針であり,外部の研究員が記録に携わる場合は,対象コミュニティとの意思疎通を密にするよう要請している。デジタル・アーカイブの公開範囲についても各コミュニティの決定に依るとして,文化の記録と保存の主体はあくまでコミュニティであると強調しているところにこのプロジェクトの配慮がうかがえる。
プロジェクトは主に,アジア太平洋地域を対象とした保存活動に対し助成金を支給している。すでに,コロンビアの先住民に伝わる儀式の歌やネパール奥地の王室の歌手による歌などの録音が終えられている。その他,フィリピン,中国・チベット国境,モンゴルなどでの計画が現在進行中である。収集された音源はデジタル・アーカイブに組み込まれるほか,文字化,採譜,翻訳などにより様々な形態で保存される。なお12月にはワークショップが開催され,今後の活動について情報交換や議論が行われる予定である。
(資料提供部・吉家あかね)
Ref:
http://www.oralliterature.org/
http://www.oralliterature.org/about/project.html
http://www.oralliterature.org/grants/grants.html
http://www.oralliterature.org/grants/grantees.html
http://www.oralliterature.org/info/news.html
http://www.telegraph.co.uk/education/6081874/Dying-languages-archived-for-future-generations.html
http://www.guardian.co.uk/uk/2009/aug/25/cambridge-world-oral-literature-project
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-1208980/Dying-cultures-saved-posterity-internet-archive.html