E2526 – BOAIが20周年を記念して新たな推奨事項をリリース

カレントアウェアネス-E

No.441 2022.08.18

 

 E2526

BOAIが20周年を記念して新たな推奨事項をリリース

図書館総合研究所・岡部晋典(おかべゆきのり)

 

  ブダペスト・オープンアクセス運動(Budapest Open Access Initiative:BOAI)は20周年を迎えるにあたって,オープンアクセス(OA)についての新たな推奨事項BOAI20を2022年3月15日付で公開した。

  BOAIは最初期にOAについて定義し,理論的基盤を与えた団体・運動である。BOAIは2001年にOA関係者を集めた会議からスタートし,2002年にOAに関する宣言(ブダペスト宣言)を公開した。BOAIはOAに関する明快な指針と運動のための十分な活動資金を持ち,また,他の諸団体と比較し,強い影響力を持っていた。

  2002年のBOAIは「研究を加速し,教育を豊かなものとし,富める者の学術を貧しき者と,貧しき者の学術を富める者と共有し,この文献を可能な限り有用なものとし,共有された知的会話と知識の探求を行う中で人類を一体化するための基盤を築く」ことを目的とし,その実現手段として研究者自身が文献をリポジトリ等で公開するセルフアーカイビング(後にグリーンOAと呼称される),または論文処理費用(APC)を支払う等によるOA(同,ゴールドOA)という2つの道筋を提示した。

  その後,ブダペスト宣言10周年にBOAI10(E1360参照)が発表され,より具体的なOAの実現手段が提示された。また,15周年を記念したBOAI15では,OAの普及に対する主な障害等の調査報告がなされた。

  BOAI20は,2002年当初のブダペスト宣言及び2012年のBOAI10の原則に引き続きコミットしていると宣言している。ただし優先順位の高い勧告が埋もれないよう,手短に4つの勧告事項を提示している。

  • オープンインフラストラクチャーでの研究成果の提供・公開
  • OA化のインセンティブ向上のための研究評価
  • 報酬の改革・経済的背景により著者が排除されない包摂的な出版・流通ルートの促進
  • OA出版に金銭を支払う際,OAが達成すべき目標を認識すること

  その後,今後10年に向けた具体的な提言として,「オープンインフラとそのガバナンス」「研究評価の実践」「APC」「Read & Publish契約」について詳細に述べられている。

  「オープンインフラとそのガバナンス」では集中よりも分散が推奨され,オープンな研究プラットフォームを導入すべきであると主張されている。「研究評価の実践」では,大学や研究組織における資金調達や採用・昇進等における研究評価の改革が推奨されており,インパクトファクター(IF)に関する懸念が表明される。OAジャーナルは新しいものが多く,伝統的なそれと比較しIFでは不利と指摘した上で,研究評価にIFを用いるとジャーナルの品質指標と研究の品質指標とで混同が生じることを指摘している。「APC」では不透明な価格設定が批判され,「Read & Publish契約」ではOAはさらなる目的を達成するための手段であり,それ自体が目的ではないことが確認される。

  過去のBOAIの勧告等と比較し,BOAI20は,OAが広まるにつれて生じた各種の問題に紙幅が割かれている。BOAI20は,雑誌のブランド等を目的としたAPCの支払いで得られるのは実質的な研究の質の向上ではなく,質が高いのではないかという「認識」であるとしている。そして,購入した「認識」により研究者のキャリアアップが左右されうる現状を指摘し,テニュア委員会等は論文の発表の場所ではなく研究の質に注目しなくてはならないと論じている。

  また,文中で「ゴールドOA」という文言がほぼ消滅しており,その代わり「ダイヤモンドOA」が多く用いられている。ダイヤモンドOAとは購読料も投稿料も不要であり,外部ソースからの資金援助等によって成り立つコミュニティ主導のOAモデルのことである。その他,APCは詐欺的なジャーナル(いわゆるハゲタカジャーナル)の養分となりうることや「グローバル・サウス」等の研究者に不均衡を与えていることが指摘され,「共有された知的会話と知識の探求を行う中で人類を一体化するための基盤を築く」というBOAIの当初の目的に立ち戻ることが示唆されている。

  以上のように,BOAI20はOAが広がった状況下で生じた問題に対する提言という性質を持つ。ただしcOAlition S等が発表した調査によると,ダイヤモンドOAの40%強が破綻,25%が損失を報告している現状が示されており,その運営は厳しい状況がうかがえる。しかしながら(グリーンOAの象徴とはいえ)日本は世界的に見ても機関リポジトリが非常に多く,大学という「コミュニティ」で作られた紀要論文は多くがOAとなっている。日本のデジタルリポジトリ連合(DRF;E1908参照)が報告した“hita-hita”アプローチ(図書館員が研究者に対して「ひたひた」とOA化を呼びかける)等は,コミュニティ主導のOAモデルという意味でも,再度,参照する価値があるように思われる。

Ref:
“THE BUDAPEST OPEN ACCESS INITIATIVE: 20TH ANNIVERSARY RECOMMENDATIONS”. BOAI. 2022-03-15.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai20/
20th Anniversary of Open Access Marked with Recommendations. 2022.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/wp-content/uploads/boai20-english-press-release-v2.pdf
“Read the Declaration”. BOAI. 2002-02-14.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read/
“BUDAPEST OPEN ACCESS INITIATIVE 15TH ANNIVERSARY”. BOAI. 2017-02-14.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai15/
藤本優子. 慶應義塾大学でのRead & Publish契約の導入と今後. MediaNet. 2020, (27), p. 44-45.
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http://www.coar-repositories.org/files/Sustainable-best-practices_final2.pdf
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https://current.ndl.go.jp/e1360
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https://current.ndl.go.jp/e1908
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https://doi.org/10.11501/11509687
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https://doi.org/10.11501/3192166