E2252 – 第2回SPARC Japanセミナー2019<報告>

カレントアウェアネス-E

No.389 2020.04.23

 

 E2252

第2回SPARC Japanセミナー2019<報告>

筑波大学学術情報部・林由美子(はやしゆみこ)

 

   2019年12月20日,筑波大学東京キャンパス文京校舎において第2回SPARC Japanセミナー2019が開催された。テーマは「オープンサイエンスを支える研究者情報サービスとその展望」である。これまで論文やデータあるいはそれらの格納場所について語られることの多かったオープンサイエンスであったが,今回は論文の著者である研究者の情報とのつながりが主眼に置かれたものとなった。

   本セミナーの概要が筑波大学の高久雅生氏より説明された後,京都大学情報環境機構(当時)の青木学聡氏が最初の講演を行った。同氏は京都大学の研究者情報データベースにあたる「京都大学教育研究活動データベース(以下「教員DB」)」を担当しており,その沿革,リポジトリとの協働体制,および今後の開発課題について述べた。2011年から運用を開始している教員DBは,助教以上の常勤教員を中心に約3,400人のデータを公開している。教員DBは,Web of Science,Scopusといった主要な学術情報データベースや京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)と連携しており,外部からのデータの取込が可能である。加えて,自身の基本情報や研究成果情報を科学技術振興機構(JST)の研究者情報データベースresearchmapに登録するよう所属教員に促すキャンペーンを定期的に実施し,そのデータをインポートすることで教員DBのデータを正確かつ充実したものにしている。

   続いて,横浜国立大学研究推進機構の矢吹命大氏が第二講演を行った。氏はリサーチ・アドミニストレーターとして横浜国立大学の研究者情報データベースにあたる「研究者総覧」の機能開発に携わってきた経緯からその機能開発,特にORCIDを利用した外部の文献情報データベースとの連携について述べた。2014年からは,大学を挙げてORCID取得キャンペーンを行ったことが奏功し,学内研究者のORCID取得率は高いが,実際にこれを活用した機能を研究者総覧に整備するのはまだ先のこととなる。

   休憩後の第三講演は,沖縄科学技術大学院大学図書館の上原藤子氏が行った。図書館が管理・運営する沖縄科学技術大学院大学機関リポジトリ(OISTIR)において,所属教員が執筆したオープンアクセス(OA)対象論文がどれだけ公開されたかという比率を算出し,これを教員評価と結びつけることでOA化が促進されるしくみが説明された。

   最後の講演では,日本原子力研究開発機構研究連携成果展開部の海老澤直美氏が,同機構で運用中の研究開発成果検索・閲覧システム「JOPSS」の機能および利活用について発表した。JOPSSは一般的な学術機関リポジトリと同様に所属研究者の執筆した論文やレポートが掲載されているのに加え,Googleや国内外の機関リポジトリに加え,著者情報はresearchmapと外部連携との強化を行なっている。JOPSSで可視化された学術研究成果は機構内で取りまとめられ,経営・評価の参考情報として経営層へ提供される。またJOPSSの情報発信により,外国の機関や今までにない業種との共著が増え,共著者ネットワークの構築が進んでいることが確認されている。研究者総覧は現在概念設計中とのことだが,JOPSSが研究成果を主体とした発信を行うのに対し,研究者主体の発信を行うことを目指しているとのことである。

   パネルディスカッションでは,講演者全員が登壇し,矢吹氏をモデレーターとして議論が進められた。会場から募った質問に対してパネリストが回答していくところから始まり,ORCIDのメンバーシップ,研究者のインセンティブ,他部局との調整や情報共有が円滑に進まないいわゆる「部局の壁」問題などが話題に挙がった。筆者が特に興味深く感じたのは,研究者情報データベースとリポジトリは将来的に一元化するのが望ましいのではないかという話題である。筆者のようなリポジトリの運用に関わった図書館員としては,研究者情報データベースは教務・人事の担当,つまり「垣根の向こうの畑で作られた別個の存在」という意識があったように思う。実際,二つのシステムは機関内の異なる組織で成り立ったもので,目的から運用方法まで異なるのは当然である。しかし情報のオープン化がここまで進んだ今,初めから情報を共有する前提で両システムを構築するとしたら,システム担当者と研究者の負担を減らすスマートなものを作ることもできるだろう(E1791参照)。

   今回はORCIDなどとの外部連携を含めた話題が多く,情報を循環させる前提でデータを作成することが求められることを痛感した。汎用性と正確性が高い情報を研究者情報データベースで提供しようとするならば,情報の形式と粒度をいかに擦り合わせていくかが重要になる。研究者データベースの国内外の事例と共に,オープンサイエンスとの関わりを今後も注視していきたい。

Ref:
“第2回 SPARC Japan セミナー2019「オープンサイエンスを支える研究者情報サービスとその展望」”. 学術情報流通委員会.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2019/20191220.html
林豊. 欧州におけるCRISと機関リポジトリの連携の現状. カレントアウェアネス-E. 2016, (302), E1791.
https://current.ndl.go.jp/e1791