E2166 – 図書館の共同出資による特別コレクションのOA化事業(米国)

カレントアウェアネス-E

No.374 2019.08.08

 

 E2166

図書館の共同出資による特別コレクションのOA化事業(米国)

利用者サービス部人文課・曽木颯太朗(そぎそうたろう)

 

 近年日本では,資金調達手法の一つとしてクラウドファンディングが定着してきており,図書館界においても運営費やデジタル化事業費などの調達が試みられている(CA1917参照)。一方日本国外では,Knowledge Unlatched(KU;CA1907参照)やUnglue.itといった,オープンアクセス(OA)化の費用を賄うクラウドファンディングに特化したプラットフォームも出現している。本稿では,そうした取組の一つとして,2019年2月にJSTOR等を運営する非営利団体ITHAKAに加わったReveal Digitalについて紹介する。

●Reveal Digitalとは

 2010年に設立されたReveal DigitalはProQuest社等でデジタル化事業に携わってきたモイヤー(Jeff Moyer)氏やグラーン(Peggy Glahn)氏らを中心に運営されている。個人ではなく主に図書館からクラウドファンディングで集めた資金により,大学図書館等の保有する特に人文系の特別コレクションをデジタル化し,OA化することを目指している。特別コレクションのOA化を中心としており,学術書や研究成果のOA化を進めるKUなどと異なる点が特徴となっている。

 Reveal Digitalが進めるプロジェクトは,コレクションの原資料所蔵館(Source Libraries)とともにデジタル化の対象を決定し企画を立ち上げることから始まる。プロジェクトでは,権利処理・デジタル化・システム構築・プロジェクト管理・アウトリーチ(営業・マーケティング等)などにかかる諸経費を算出し,それらを回収できる目標額を設定した後,期限を定めて資金を拠出する図書館(Funding Libraries;以下「資金拠出館」)を募集する。1回の拠出額は館の種別(2年制カレッジ,4年制大学,大学院等)によって異なる。例えば後述する“Independent Voices”プロジェクトの場合は,基準額として5,130ドル(4年制大学等)から2万500ドル(北米研究図書館協会(ARL)加盟館)が設定されていた。期限内に調達目標額に達すれば2年程度のエンバーゴ期間を経て,当該コレクションはOA化される。目標額を上回る拠出金が集まれば,1館あたりの拠出額は減額される。またReveal Digitalは資金調達だけでなく,これらプロジェクトの管理運営全般も支援する。原資料所蔵館はReveal Digitalの支援の下でデジタル化を行いそのデータを得られること,資金拠出館はOA化に先行してエンバーゴ期間にアクセス可能となること,MARCデータやCOUNTER(CA1512参照)に準拠した利用統計の提供を受けられることなどが参加の利点として挙げられる。

●プロジェクトとその成果

 Reveal Digitalが成功させた初のプロジェクトは,“Independent Voices”で,1950年代から1980年代に米国で刊行された社会運動などに関わる反体制派出版物(alternative press)約1,000タイトルをデジタル化したコレクションである。このプロジェクトでは,米・デューク大学図書館等が所蔵するコレクションをデジタル化して公開することを目的とし,2013年から2017年までの期間に約180万ドルの資金を募集した。最終的に122の図書館等が資金を拠出して目標額に到達し,当初の予定より半年早い2018年5月にOA化された。

 2番目のプロジェクトは“Hate in America”で,白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)の主に1920年代から1930年代の出版物やその反対派の出版物を集成することを企図している。2019年6月現在で66館が参加し,目標額約68万ドルの約6割が既に集まっている。目標とする2020年のOA化が期待される。

 現在進行中の3番目のプロジェクトである“Diversity & Dissent”は,前2者とは方式を変更している。20世紀米国の社会運動関係の出版物をOA化し,市民社会を映し出す試みとして,約440万ドルを募り,賛同する図書館等に2017年から2021年までの最長5年間の関与を求めている。資金拠出館はプロジェクトの趣旨に沿うコレクションのデジタル化企画を毎年提案可能であり,資金拠出館の投票により企画の採否・優先度が決定される。採択されると最大1万ドルが企画した館に供与され,Reveal Digitalからプロジェクト支援を受けられる。また資金拠出の枠組みが細分化・低額化されて公共図書館と大学図書館の館種に応じて拠出基準額が決められるとともに,企画への投票権を持たない等の条件で基準額未満の額の拠出でよい寄与館(Contributing Libraries)の仕組みも設けられた。資金拠出館のより積極的な関与を促すとともに,門戸を広げようとしている点が特徴的である。

●ITHAKA加入と今後

 前述の通り,2019年2月にReveal DigitalはITHAKAに加わった。ITHAKAは,この加入がITHAKAの進めるOA化戦略に資するものであると考えており,JSTOR等の一括検索の範囲をReveal Digitalのコンテンツにも広げ,利用者の利用拡大につなげることを構想している。他方でReveal Digital側もITHAKA加入により財政的・人的基盤が強化されると見ており,相乗効果が期待される。

 OA化が進めば資金拠出の有無に関わらず当該資料は誰もが利用可能となる。米・カリフォルニア州立大学ノースリッジ校オヴィアット図書館のブロック(Chris Bulock)氏は,一般的にOA化する資金をクラウドファンディングによって調達する場合の課題として,図書館が率先してプロジェクトに参加することにいかに正当性を与えていくかという点を指摘している。Reveal Digitalは,電子ジャーナルの購読と比較してプロジェクトへの資金拠出がはるかに低廉であることを強調する一方で,企画案の選定に参画させるなど資金拠出館のインセンティブを増すべく模索も続けている。ITHAKA加入後の具体的な方向性も含めて引き続き注目される。

Ref:
http://revealdigital.com/
http://revealdigital.com/how-it-works/
https://doi.org/10.1629/uksg.375
http://revealdigital.com/how-it-works/staff/
http://revealdigital.com/news/
https://voices.revealdigital.com/
http://revealdigital.com/independent-voices/
http://revealdigital.com/wp-content/uploads/2018/05/Reveal-Digital-Opens-Independent-Voices-to-All-Rev-1.0.pdf
https://kkknews.revealdigital.com/
http://revealdigital.com/wp-content/uploads/2017/09/KKK-Newspapers-Prospectus-20170922-Web-Rev-1.0.pdf
http://revealdigital.com/hate-in-america/
http://revealdigital.com/diversity/
http://revealdigital.com/wp-content/uploads/2018/03/2018-Spot-Grant-Application-Form-UCSD-20180228.pdf
https://www.ithaka.org/news/reveal-digital
https://about.jstor.org/events/meet-reveal-digital-helping-libraries-open-their-hidden-collections/
https://doi.org/10.1087/20150409
https://www.against-the-grain.com/2019/06/v31-3-little-red-herrings-an-interview-with-peggy-glahn/
https://doi.org/10.1080/00987913.2018.1472477
https://doi.org/10.1080/01462679.2017.1415826
CA1917
CA1907
CA1512