E2141 – LJ誌Movers & Shakersに選出の田中あずささんにインタビュー

カレントアウェアネス-E

No.370 2019.06.13

 

 E2141

LJ誌Movers & Shakersに選出の田中あずささんにインタビュー

 

 米国のLibrary Journal(LJ)誌が毎年発表している「図書館界を動かした人,揺るがせた人」(Movers & Shakers;E1546参照)の2019年版のうち,「革新者(Innovators)」のカテゴリーの図書館員の1人に,ワシントン大学図書館の日本研究司書である田中あずさ氏が選出された。『カレントアウェアネス-E』事務局では田中氏にお話を伺った。

――おめでとうございます。選出されてのご感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。日本学多巻資料の総目次・索引電子化プロジェクト(E2068参照)の成果が取り上げられて嬉しく思います。このプロジェクトは日本の12の出版社をはじめ,全米と日本の多くの図書館関係者またワシントン大学図書館の同僚達総勢50人以上の協力者があってこそ達成できたものでした。また東亜図書館協会(CEAL)とアンドリュー・W・メロン財団の経済的支援なくしては実行にさえ移せないプロジェクトでしたので,私が1人でMovers & Shakersをもらってしまい申し訳ない思いです。

――これまで日本研究司書としてどのように活動してこられましたか。

 2009年から2013年まで小規模な私立大学であるセントルイス・ワシントン大学にて,また2013年からは大規模州立大学であるワシントン大学にて,日本研究科専属のサブジェクトライブラリアンとして勤務してきました。主な仕事内容は,選書,レファレンス,予算管理,目録,図書館ワークショップのインストラクションなど,日本研究科への図書館サポート全般です。また,現在の大学では,図書館員も教授職のように,研究成果が求められるため,所蔵しているコレクションの研究の他,図書館員の多様性についても研究してきました。特に,他大学にいる2人の図書館員達と,米国内の学術図書館における,有色人種の図書館員の実態について共同研究をすすめてきました。米国の大学では有色人種の学生数が伸びているのですが,図書館員には相変わらず,白人が多く,有色人種の学生特有のニーズに対応できていません。なぜ,有色人種の図書館員が増えないのか,社会や家族からの影響はあるのか,彼らは職場でどのような経験をしているのか,特に差別や支援の薄さについても調査しました。

 日本学多巻資料の総目次・索引電子化プロジェクトの必要性は,前職場である,比較的小規模な図書館で利用者の様子を観察していたときから感じていました。多巻資料は高額で,小規模図書館では,そうそう購入できませんから,大きな大学からの相互貸出のサービスに頼る機会も多くなります。相互貸出申請をする際,どの巻に必要情報が掲載されているのか分からない,という問い合わせが,前職場で沢山ありました。例えば雑誌記事を探している場合,索引データベースのようなレファレンスツールで探すことができることもありますが,情報がない場合は,その雑誌の復刻版の総索引や総目次が便利です。著者全集や特定のテーマの集成ものになると,全集や集成に付されている総索引や総目次を引くことがますます必要となります。その場合,まず総目次や索引を他大学から取り寄せてあたりをつけてから,実際に必要な巻を取り寄せるという手間が必要でした。総目次や索引がOPACに載っていれば便利だろうというアイデアは前職で感じていたこうしたニーズから出たものです。

 図書館が大きく,蔵書が充実している現在の職場でも,勿論全ての多巻資料が揃えられる訳ではありませんから,同じ問題は起こります。更に,大きな図書館では,索引を所蔵していても,利用者が索引にたどり着くには広大なキャンパスを行き来しなくてはならないという別の問題があります。現在勤務するワシントン大学図書館では,所蔵している雑誌資料をスキャンして電子メールでお届けするサービスも展開していますから,利用者がわざわざ図書館や書庫に出向かずに済むサービスについては常に考えていました。それで,総目次や索引を電子化したいという夢はいつも頭の片隅にありました。このプロジェクトを一緒に進めた,ピッツバーグ大学図書館とコーネル大学図書館の日本研究司書達もそのような考えを持っており,プロジェクト案は彼らと練っていたものでした。

 そんな折,CEALがメロン財団から資金を得てInnovation Grants for East Asian Librariesという助成金制度を設立しました。私達は,迷わず,総目次・索引電子化プロジェクト向けに,この助成金制度へ申請を提出しました。プロジェクトの有用性が認められ,助成金を無事獲得。紆余曲折あって,最終的に,ワシントン大学で電子化されたファイルを管理することになったため,ワシントン大学所属の私がプロジェクト・リーダーとなりました。日本の出版社の方々から電子化の許可を頂き,合計156セット分の総目録や索引を電子化し,PDFデータはワシントン大学のリポジトリにアップロードしました。リポジトリでは,156タイトルの1つずつに書誌データを作成し,PDFデータへのリンクを付与しました。リポジトリへのリンクはOCLCの書誌のその他の情報欄に入力しました。このことで,OCLCの書誌情報を自館のOPACに反映している図書館では,PDFデータへのリンクも自館OPACの書誌データから見られるようになりました。

――今回はどのような経緯での選出だったのでしょうか。

 今回は300以上の推薦があり,54人の図書館員達が最終的に2019年のMovers & Shakersに選ばれたそうです。受賞者のバックグラウンドも,米国とカナダのみならず,日本(私)のほかオーストラリア,デンマーク,エジプト,フィジー,スコットランドを含む国際的なものだったようです。

 推薦のカテゴリーは,活動者(Activists),提唱者(Advocates),組織を変えた人(Change Agents),協力者(Collaborators),伝達者(Communicators),コミュニティを作った人(Community Builders),教育者(Educators),革新者(Innovators),語り手(Storytellers),技術主導者(Tech Leaders),先見者(Visionaries)とありますが,私は革新者のカテゴリーで評価して頂きました。推薦内容は,日本学多巻資料の総目次・索引電子化プロジェクトのリーダーであったことの他に,これまで行ってきた,学術図書館における多様性の研究の成果についても含めて頂いていたのですが,電子化プロジェクトでの受賞となりました。世界的に権威のある組織が,日本語資料をテーマとしたプロジェクトという,メインストリーム以外の分野に,スポットを当てて評価してくれたことを嬉しく思います。

――今後に向けてのお気持ちや,新たに構想されていることなどがあれば,お教えください。

 電子化した総目次や索引へのリンクは,OCLC書誌データを利用している図書館では自館OPACに反映されます。しかし,日本の図書館の多くはOCLCの書誌データは利用されていないようですので,これらのリンクの存在を日本の図書館や研究者の方々といかに共有していくかが今後の課題です。

――最後に,国内外の図書館員へのメッセージをお願いします。

 電子化した資料を活用していただけましたら嬉しいです。資料のタイトルとPDFへのリンクのリストはこちらにあります<http://guides.lib.uw.edu/research/japaneseindex>。OPACにリンクを貼って頂くのも,個人で使って頂くのもご自由にどうぞ。

 このプロジェクトで電子化できた総目次や索引は,価値ある日本研究資料のほんの一部でした。今後,もっと多くの資料の総目次や索引が電子化されると,利用者の便に資することになると思います。日本でこのようなプロジェクトを引き継いで頂ける場合,私達のプロジェクトで使ったワークフローなどを共有することが可能ですのでご一報頂けたらと思います。

 北米で日本研究を図書館から支えることができるのも,日本の図書館員の皆様のサポートが大きいです。ほんの一例として,日本から資料を送って下さるILL担当の方々。レファレンス協同データベースにレファレンス事例を登録して下さっている方々(このおかげで,難しいレファレンスに答えることが出来ています)。また,日本国外の図書館向けデジタル化資料送信サービスも,日本国外で日本の資料を必要とする利用者の助けとなります。この場をお借りして感謝申し上げます。

協力:ワシントン大学図書館・田中あずさ
聞き手・編集:関西館図書館協力課調査情報係

Ref:
https://www.libraryjournal.com/?page=movers-and-shakers-2019
https://www.libraryjournal.com/?detailStory=azusa-tanaka-movers-shakers-2019-innovators
https://jisao-washington.academia.edu/AzusaTanaka
http://guides.lib.uw.edu/research/japaneseindex
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028730224-00
E1546
E2068
CA1737