E2062 – オンライン資料の納本制度の現在(5)シンガポール

カレントアウェアネス-E

No.355 2018.10.04

 

 E2062

オンライン資料の納本制度の現在(5)シンガポール

 

 2018年7月9日,「国立図書館委員会(改正)法」(以下「本法」)がシンガポール国会で可決された。これにより,従来から納本対象であった有体物(紙資料,CD,DVD,CD-ROM等)に加え,電子書籍・電子雑誌等の電子出版物(以下「オンライン資料」)及びウェブ上の情報(以下「インターネット資料」)についても,国立図書館委員会(NLB)による制度的収集が可能となった。本法の施行日は,近く官報で公表される見通しである。

 「(オンライン資料やインターネット資料が)適時に体系的に収集されなければ,我々は,シンガポールにおける出版遺産の重要な部分を失うことになるだろう。」国会でイスワラン(S. Iswaran)情報通信大臣は,デジタル形式のみで発行される資料の増加状況や,日本を含む他国において既に法改正が進められている状況に言及しつつ,本法の意義を訴えた。

 これまでもシンガポールでは,NLBによって,オンライン資料やインターネット資料の収集・保存に向けた取組みが行われてきた(CA1826参照)。オンライン資料の任意による納入の呼びかけや,公的機関のウェブサイト等を収集する「ウェブアーカイブ・シンガポール」(Web Archive Singapore)事業は,その主な例として挙げられる。しかし,これらはいずれも法に基づく制度的収集ではなく,収集の包括性や保存の恒久性の面で課題が指摘されていた。本法は,国立図書館委員会法(以下「NLB法」)及び関連する著作権法を改正し,オンライン資料やインターネット資料のNLBによる制度的収集を可能とすることで,こうした課題に対応するものとみられる。

 以下,本法による主な改正点を概説する。

●オンライン資料の納本対象化

【対象資料】
 新たに納本対象となるのは,販売又は公衆への頒布を目的としてシンガポール国内で発行・公開されたオンライン資料である(改正NLB法第2条,第10条第1項)。機密文書,データベース,写真・絵等は対象外とされている。

【納入方法】
 上記対象資料について,出版者は,出版日から4週間以内に1部を自己負担にてNLBに納入することが義務付けられている(同法第10条第1項)。納入するオンライン資料は,アクセス上の制約となる技術的な制限等が付されていない状態のものでなければならない(同項)。なお,紙媒体でも販売又は頒布されているものについては,紙媒体(2部)及びオンライン資料(1部)双方の納入が求められる。

 納入手続きは,ISBN,ISSN等の国際標準番号が付与されているものについては,NLBウェブサイト上のオンラインシステムを通じて行う。国際標準番号が付与されていないものは,書誌事項,著作権者,公開範囲等のメタデータを記入したファイルとともに,メールで納入する。納入可能なフォーマットには,PDF,PDF/A,JPEG,MP3及びMP4形式が挙げられている。

【利用方法】
 納本されたオンライン資料のうち,著作権保護期間を過ぎたもの又は著作権者の許諾があるものは,NLBウェブサイト上の“BookSG”からインターネット上で全文を利用できる。“BookSG”は,シンガポール国立図書館のデジタル化資料等を検索・閲覧できるデータベースである。一方,それ以外のものについては,国立図書館内の指定の場所での,非商業的な教育又は研究目的の閲覧に限定されている(同時アクセス可能数は1)。さらに,著作権者の許諾がない限り,利用者がそれらの資料を複製したり送信したりすることは認められていない(改正著作権法第45条第7A項,第113B条)。

●インターネット資料収集の円滑化

 本法による改正は,本稿のタイトルに掲げた「オンライン資料」のみならず,「インターネット資料」の収集にも及んでおり,NLBは,著作権者からの許諾なくインターネット資料を複製・収集できるようになった(改正NLB法第2条,第6条d号,第7条第2項fa号,改正著作権法第49A条,第113A条)。

【対象資料】
 制度的収集の対象となるインターネット資料は,イスワラン情報通信大臣の国会答弁によれば,「.sgドメイン」のウェブサイト上で,一般に利用可能な資料である。「.sgドメイン」でないソーシャルメディア上の資料や,パスワードで保護されている資料等は,制度的収集の対象外とされている。

【収集頻度】
 対象資料の多くは年1回の頻度で収集されるが,政府のウェブサイト等については,より高頻度で収集されることとなっている。

【利用方法】
 収集されたインターネット資料のうち,著作権保護期間を過ぎたもの又は著作権者の許諾のあるものについては,NLBウェブサイト上の“Web Archive Singapore”からインターネット上で利用できる。それ以外のものについては,国立図書館内での閲覧に限定され,著作権者の許諾がない限り,著作権法上,利用者による複製・送信は認められていない(改正著作権法第45条第7A項,第113B条)。

 以上のように,NLBによるオンライン資料やインターネット資料の収集・保存の取組みは,法による後ろ盾を得ることとなり,今後さらに進められていくものとみられる。

 今後の課題としては,閲覧場所や複写に係る制限等の利用面における制約の緩和が挙げられている。本法は,出版者,作家,ブロガー等の利害関係者からの意見聴取やパブリックコメントを経て成立に至ったが,利用面における課題の検討に際しては,今後も関係者等間での意見の調整が重要になるものと思われる。

関西館アジア情報課・伊勢田梨名

Ref:
https://sso.agc.gov.sg/Acts-Supp/30-2018/Published/20180813?DocDate=20180813
https://sso.agc.gov.sg/Act/NLBA1995
https://sso.agc.gov.sg/Act/CA1987
https://sprs.parl.gov.sg/search/sprs3topic?reportid=bill-2053
https://www.reach.gov.sg/participate/public-consultation/national-library-board/strategic-initiatives–research-nlb/proposed-amendments-to-the-national-library-board-act
https://www.nlb.gov.sg/Deposit/About/DigitalDeposit
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/wipo_cr_wk_ge_08/wipo_cr_wk_ge_08_www_105895-related1.pdf
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/509445/www.ndl.go.jp/en/cdnlao/newsletter/066/664.html
https://doi.org/10.7227/ALX.0017
http://eresources.nlb.gov.sg/printheritage/faq.aspx
https://www.straitstimes.com/opinion/online-archives-matter-its-only-right-to-bring-them-into-nlb-fold
CA1826