E1985 – NDL,図書館総合展で2016年度調査研究関連のフォーラムを開催

カレントアウェアネス-E

No.339 2017.12.21

 

 E1985

NDL,図書館総合展で2016年度調査研究関連のフォーラムを開催

 

 2017年11月9日,国立国会図書館(NDL)は,第19回図書館総合展において,フォーラム「利用者から学ぶ超高齢社会の図書館―平成28年度国立国会図書館調査研究より―」を開催した。当日は,157名の参加があった。

 このフォーラムは,2016年度にNDLが行った調査研究の成果報告会として開催した。近年,日本社会の急速な高齢化の進展に対応し,外部機関と連携して高齢者にサービスを提供したり,地域の高齢者と協働してサービスを提供したりするなど,公共図書館のサービスと地域の高齢者との関係に新しい動向が見られる。本調査研究はこれらの事例を広く紹介することで全国の公共図書館の今後の取組みの検討に資することを意図している。

 フォーラムでは,まず,関西館図書館協力課の阿部健太郎が,調査の概要について報告を行い,調査の背景や目的,調査手法等について説明した。その後,本調査研究に参画した九州保健福祉大学保健科学部教授の小川敬之氏,筑波大学図書館情報メディア研究科長・教授の溝上智恵子氏が,それぞれ超高齢社会と図書館,調査結果の概要について報告した。最後に,研究主幹として本調査研究を主導した筑波大学図書館情報メディア系教授の呑海沙織氏がファシリテーターとなり,図書館員として川崎市立宮前図書館の舟田彰氏と,図書館の高齢利用者2名が対談を行った。

 小川氏は,国内外の高齢化や認知症発症の状況,認知症施策,公共図書館の認知症への取組みについて報告した。世界的に高齢化が進展している中,日本が最初に超高齢社会に突入し,認知症の人も今後ますます増加すると述べ,世界の認知症発症状況や各国の認知症施策について紹介した。日本については,「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」や,地域包括ケアシステムを取り上げた。そして英国のほか,宮崎県の日向市や延岡市などの取組みが紹介された。

 溝上氏は,本調査研究の一環として,神奈川県在住の高齢者20人に対して実施した,図書館サービスへのニーズについてのインタビュー調査の結果について報告した。インタビューでは,図書館利用の頻度やアクセスにかかる時間,来館(非来館)理由,よく利用している図書館サービス,あれば利用したいと思う図書館サービスの提供,高齢者に必要だと考える図書館サービス,認知症への関心等について質問した。調査結果のまとめとして,高齢者の行動が多様であることを踏まえた図書館サービス,図書館へのアクセスの検討,図書館資料の充実などの必要性や,場としての図書館に対するニーズ,認知症への関心の高さ等を指摘した。最後に,単にサービスを受ける対象としてではなく主体的な社会参画を志向している高齢者がいること,今後このような高齢者に対してどのようなサービスを提供できるのか考えていく必要があることが述べられ,報告が締めくくられた。

 続いて,呑海氏がファシリテーターとなり,舟田氏と高齢利用者2名による対談が行われた。最初に舟田氏より,川崎市立宮前図書館における認知症の取組みが紹介された。同館では認知症関連の資料を集めた書架を設置したり,職員が積極的に「認知症サポーター養成講座」を受講して「認知症サポーター」となり,目印となるオレンジリングを腕に付けて業務にあたったりしていること,また,地域包括支援センターとの協働などを通じて,今後何ができるのか試行的実践を行っている段階であることが言及された。

 その後,高齢利用者2名が,図書館との関わりについて語った。1名の利用者には認知症の家族がおり,その家族に連れ添って同館に来館した際の職員の対応について語った。舟田氏に親身に話を聞いてもらったことを挙げ,認知症の家族を持つ利用者にとって親切丁寧な対応がいかに重要であるかを強調した。舟田氏からは,認知症の利用者にも他の利用者と同じように対応していることや,認知症の利用者の家族に対しては,カウンターではなく別室を用意するなどして話しやすい環境を作って相談に乗っていることが述べられた。また,オレンジリングは胸元等の目立つところに付けてもらったほうが声を掛けやすいなど,認知症の利用者の家族ならではの意見も述べられた。その他,アクセスのしやすさを考慮して同館に来館したことも言及された。

 もう1名の利用者はボランティアで読み聞かせを行っており,高齢者施設や保育所等を訪問すること,その準備のために図書館を利用することなどを語った。「高齢者にとって図書館は灯火(ともしび)である」とし,本へのアクセスにおける図書館の存在の大きさを指摘した。

 最後に,「超高齢社会と図書館研究会」が作成した「認知症にやさしい図書館ガイドライン」が公開されたことが,同研究会の会長でもある呑海氏から紹介された。

 本調査研究の報告書『超高齢社会と図書館~生きがいづくりから認知症支援まで~』は,「カレントアウェアネス・ポータル」で公開している。ぜひご活用いただきたい。

関西館図書館協力課調査情報係

Ref:
https://www.libraryfair.jp/forum/2017/5936
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/lff2017.html
http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000078742.html
http://www.slis.tsukuba.ac.jp/~donkai.saori.fw/a-lib/
http://www.slis.tsukuba.ac.jp/~donkai.saori.fw/a-lib/guide01.pdf
http://current.ndl.go.jp/report/no16
https://doi.org/10.11501/10338812
E1669
E1818
E1917