E1822 – 全米が「図書館に夢中」:OCLCによる6年間のキャンペーンが終了

カレントアウェアネス-E

No.307 2016.07.14

 

 E1822

全米が「図書館に夢中」:OCLCによる6年間のキャンペーンが終了

 

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団の資金援助を受け,2009年からOCLCによって米国内で繰り広げられたキャンペーン“Geek the Library”(「図書館に夢中」)が2015年6月に終了した。2009年からの6年間で参加した公共図書館の数は1,779(図書館システムでは959)にのぼる。キャンペーンはいくつかの段階を踏んでおり,2010年4月までは,ジョージア州,イリノイ州など5つの州にある100館ほどが参加する試行期間であった。その後,その結果を分析するとともに内容の改善を図り,2011年6月以降は全米の図書館が「図書館に夢中」に参加できるようになった。試行期間についての報告書は2011年に発表され,2016年4月にも報告書“Local Action and National Impact”(以下最終報告書)が発表された。最終報告書には2012年から2015年の3年間を調査期間として,「図書館に夢中」に参加した図書館員へのインタビューした調査の結果などが示されている。

 「図書館に夢中」が始められた遠因は,2005年頃に公共図書館の運営資金が深刻な減少を見せたことにある。OCLCはこれを受け,2007年に公共図書館の運営資金確保の方策を見出すため,調査を実施した。その結果,OCLCは図書館の支援者層に対し,(1)図書館は人々の生活を一変させることができるという図書館の価値,(2)図書館が財政難にあること,の2点を印象付けるキャンペーンを実施すべきことが提言された(E818参照)。「図書館に夢中」はこれをもとに考案されたキャンペーンである。

 このような経緯から,「図書館に夢中」は人々に公共図書館の価値を認識してもらい,図書館や図書館員への意識に影響を与えることによって,長期的に図書館の運営資金を増加させるまたは確保していくことが根本的な目的であった。一方で,人は誰も何か情熱を傾け,夢中になる(geek)ものがあり,公共図書館はそれを全面的に支援するのだという理念も込められている。

 キャンペーンは,(1)宣伝・PRのツールを用いた地域コミュニティへの「図書館に夢中」の周知,(2)図書館員の住民や地域コミュニティの団体,企業,有力者などとの交流,関係性の構築,(3)ビジネス支援など図書館が果たし得る役割の主張と公共図書館の運営資金に関するメッセージの発信,という3ステップを踏むものであった。OCLCは,これらに取り組む図書館員や図書館の活動を様々な方法で支援した。図書館員への支援策としては,キャンペーンを進める上でのヒントや各館の取組を共有することができる場としてウェブサイト(geekthelibrary.orgなど)やSNSアカウントを設けたほか,図書館員からの相談を受け付けるスタッフなどを用意した。図書館の活動への支援策としては,宣伝・PR等に使用できる,プロが製作した「図書館に夢中」のグッズ(ポスターやTシャツなど)を提供したほか,イベントも開催した。また,最終報告書によれば,OCLCの支援のほかに独自に自館のウェブサイトや各種メディアを用いたり,イベントを開催したりして「図書館に夢中」に参加する図書館も多かったとされる。

 最終報告書によればプロジェクトの成果は主に以下の3点である。

・図書館員のスキル向上
 図書館に関するアドヴォカシー活動や広報,マーケティングを行うスキルが向上し,それらに自信を持って継続的に取り組めるようになり,また地域コミュニティと戦略的に連携できるようになったことが挙げられている。

・図書館への支援の獲得
 利用者からの反応(図書館に寄せられる意見の数,SNSへの反応,来館者数など)が改善されたこと,学校,地元の企業,自治体との結びつきが強められたこと,図書館の代弁者として図書館を擁護してくれる人を獲得できたこと,が挙げられている。なお,擁護してくれる人との具体例としては,地方議員に対し,図書館について提言をしてくれた人,地方紙やSNSで図書館への支援を訴えかけてくれた人などが挙げられている。

・図書館運営資金の確保に向けたきっかけづくり
 図書館員が地域にとっての図書館の価値を説明し,運営資金について触れる上で,キャンペーンがよいきっかけとなったとされている。

 その他の成果として,例えばキャンペーンのキックオフイベントを地元の喫茶店で開催するなど,地域の企業や非営利組織などと互いにメリットがあるプログラムやイベントを実施することで協力関係を築くことができたという図書館や,キャンペーンを通じて自館に課題を見つけ,マーケティングに関する役職を設けたという図書館の事例が最終報告書で紹介されている。また,課題としては,例えば資金確保について広く図書館全体に対して支援するのではなく,特定のトピック(例えば建物の建て替えなど)について支援をする事例がみられたということが挙げられている。

 キャンペーン終了後の調査では「図書館に夢中」に好意的な印象を持った図書館員は8割を超え,評価は高い。また,参加した図書館の約半数は,職員数がフルタイム換算値(FTE)1~5で,年間予算も30万ドル未満(2011年時点)であり,予算・人員の少ない図書館でも参加できるキャンペーンとして成功を収めたといえる。最終報告書では,OCLCによる支援策に関しては,ウェブサイトで事例やノウハウの共有をできるようにしたことが図書館員から好評であったとされ,キャンペーンが終わった今もSNSへの投稿は続いている。図書館員がウェブサイトやSNSでキャンペーンの知見を共有できる,一種のプラットフォームを用意したことが,「図書館に夢中」の成功に一役買ったのではないだろうか。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://www.oclc.org/en-US/reports/geekthelibrary.html
http://www.oclc.org/research/publications/2016/oclcresearch-geek-the-library-2016.html
https://www.webjunction.org/explore-topics/geek-the-library.html
https://web.archive.org/web/20160306223106/http://get.geekthelibrary.org/
https://www.webjunction.org/explore-topics/advocacy-in-action.html
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http://www.webjunction.org/documents/webjunction/advocacy-in-action/geek-the-library-case-studies.html
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